そんな些細な希望が打ち砕かれたのは車に乗った直後。花月からの電話やった。


「今日は真守ん家泊まるわ。どうせお前も帰って来うへんねやろ?」

「……まあ、そっち着く頃には朝方やな」

「そうなんや、お疲れ。気ぃ付けてな」

「おう」


 さっぱりとした対応なんはいつものことやし、一方的に通話を切られるんもいつものこと。けど、それがちょっと堪えるんは俺がほんまに疲れとるからやろうか。
 事務所まで戻っても花月がおらんのやったら、あの部屋に戻る意味はない。それやったら家に帰った方がよっぽどマシや。会社にも近いし、着替えもある。
 運転をする下のもんに行き先を変更することを伝えて、ズルズルとシートに深く沈んだ。

『いっつも誰かに運転してもろて、後ろで踏ん反り返っとる』

 いつかの花月の言葉を思い出す。あれは、自分で運転して花月の淹れたコーヒーを飲みに行った日やったか。
 あの頃は、あいつに好かれようと必死で、触れるのを躊躇ってたんやったか。いや、躊躇うというよりは、我慢っていう方が近いか。
 大切にしたい。優しくしてやりたい。でもどうすればええんか分からん。せやからとりあえず、無駄に触れるのをやめた。無理矢理、好きでもない男から触られて、キスをされるんなんか俺やったら最悪通り越して殺意が湧く。そんなことを金で縛って強引にしてきた自分に後悔した。
 あいつを一人にせえへんことや、借金をどうにかしてやるだけやったら、もっと違うやり方もあった。例えば、あの店に住まわせてやるとか。借金のことにしても、肩代わりなんぞするまでもなく消してやることくらい簡単に出来た。
 それでも、花月一人では到底返せそうにない借金があって、それくらい俺にとっては大した金額やないと知った瞬間、これで花月を自分のものにできる。そう思った。思ってしまった。

 いざ一緒に暮らしてみたら、そんなことで満足したんは最初だけ。結局は、俺のことを花月が知らんかった時よりも虚しかった。


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