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鬱陶しいネクタイとピンを一緒くたに外してゴミ箱にほかした。アホみたいな黄色いそれ。こんなもんをちょっと間でもこの俺が身に付けたことを感謝しろ。クソじじい!
可能であればシャツも脱ぎ捨てたいところやけど、さすがにボタンを外して着崩すだけで我慢する。ついでに頭もかき混ぜて全部後ろに流した。
「せっかく似合ってたってぇのによぉ。捨てることはねぇだろぃ」
「似合うてたまるか。ふざけんな」
「おーおーご機嫌斜めじゃあねぇか。組長に言われた通り、あの娘さんに興味持ってもらえたろうよ。よくやったぜ。おめぇはよぉ」
清次さんが俺を労いながら、俺がほかしたネクタイを拾う。そんなもん取っといてどないすんねん。誰も使いたないやろ。
「あ? これか? こういう若者向けのやつぁよ、てめぇんとこで可愛がってるっていう……何だ? 花月くんだったか? その子にやりゃあ喜ぶだろうよ。物は悪くねぇはずでぃ」
「……ああ、そうやな。あいつやったら似合うわ」
俺が使って、しかも一回ゴミ箱に入ったやつやけど。まあ他にゴミは入ってないし、ええやろ。
パタパタと畳んでネクタイを俺に渡して、ピンは何も言わんと自分のポケットに入れる清次さん。
「ピンは」
「これぁ……鈴音さんに借りたんでぃ。俺から返しておくから気にすんな」
「鈴音? 何でわざわざ」
「それぁおめぇ……女受けするシャツなんざ、俺にゃあさっぱりだからよぅ。鈴音さんに頼んで選んで貰ったんでぃ」
「……あっそ」
視線を逸らす仕草が清次さんらしくない。けどまあ別にどうでもええ。とりあえず、めんどくさい見合いも終わったし、俺は帰る。
「ほな、帰るわ」
「何でぃ、帰っちまうのか。本家に顔出さねぇのか?」
「明日朝から会議やねん。本家行ったらなんやかんや引き止められるやろ。会議に遅れたら鳴海がうるさいから、さっさと帰る」
「朝からっておめぇ……今からすぐ帰っても休む暇もねぇじゃあねぇか」
「せやぞ。せやからクソじじいにほんまに感謝せえ言うといてくれ。また顔出すから狼にもよろしく頼むわ」
「気ぃ付けて帰れよ」
「清次さんも」
向こう着く頃にはまだ花月は寝とるやろうな。とりあえず事務所戻って風呂入ったら、ちょっと間でもあいつ抱きしめて休もう。
そうでもせんと、会議なんぞ出る気にならんわ。
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