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ホテルのレストランで見合いが始まった。見合いというよりは、食事会って言うた方が適当か。
相手の女はハタチそこそこの小娘。まあ27の俺や、25の狼と見合いさせよう言うんやから当たり前やけど。笑いもせんし、話もまともに出来へんつまらん女。こんなんやったら花月とここでメシ食いたい。
目をキラキラさせて、どれもこれも美味い美味い言いながら頬張る花月が目に浮かぶ。……ああ、ちょうどあそこに座っとる女2人組の片方がそんな感じやな。
「…………」
あの女、見れば見るほど花月に似とる気がする。特に口元が……本人かってくらいに似とる。喋る時の口の動きも、咀嚼する時の癖も、花月そのものちゃうか。
でも女やし。目元も似とるようやけど違うし。大体、ここ関東やし。他人の空似ってほんまにあるんやな。
このつまらん食事会も、あの女見とったらちょっとは楽しめそうや。
「結城さん、恋人はいないのかい?」
じじいの言う『小さい銀行』は、蓋を開けてみれば、立派な都市銀行。それも、野田の敵対勢力とズブズブのクソ銀行の頭取。
じじいも、このタヌキ親父も、どういう腹か知らんけど、めんどくさい探り合いに俺を巻き込むな。
「私のような人間とは、よほどのもの好きやないと付き合おうなんて思わへんでしょう」
「そんなことはないだろう。君は外見も良いし」
「女性に好かれる風貌や無いことは自覚してますよ」
花月が一回俺のことを『野獣みたい』と言うたことを思い出す。『顔が怖い』とも。でもしばらくしたら『無駄にかっこええ』とかも言うてたか。結局どっちやねん。俺の顔は好きなんか、嫌いなんか。
俺のどこを好いてくれて、そばにおることを選んでくれたんか、今の俺には分からん。例えば、顔とかそんな些細なもんでも花月が良いと思ってくれるんやったら、ただただ嬉しい。
「じゃあ今は恋人はいないんだね?」
「付き合うてる女性はおりません」
満足そうな顔をしとるタヌキ親父。付き合うとる女はおらんでも、男はおるけどな。
「でも、ああ、こんなことを言うと似合わへんと笑われるんですが……忘れられへん人が、おるんです。まあ、まだまだ子供やった頃の、それも片思いなんですけどね」
女が驚いた顔を隠しもせんと、俺の方を見た。俺みたいなもんがこういう話をすると女は結構興味を示す。俺が女相手に使う鉄板ネタや。
「……今も、想い続けておられるんですか?」
釣れた。ちょろ過ぎる。
俺は女に対して、その質問を肯定しとると思わせる笑顔を作った。
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