「は? 見合い?」

「まあ、断るけどな。会うだけ会うて、相手さんには納得してもらう」

「なんか仕事の関係? 大変やな。あ、お前怖い顔して女の人ビビらすなよ」


 ……それだけか。お前が言うことはそれだけか? 恋人から見合いする言われて『大変やな』? 『ビビらすなよ』?
 ちょっとは気にしてくれ。俺がお前の立場やったら全部ぶち壊すぞ。それが出来んかったとしても、絶対断ることを誓わせる。何があっても俺以外を選ばせへん。
 嫉妬しろとは言わんから、少しは不安な素振りでもしてくれよ。そんなんやから、俺はいつまで経っても一方通行みたいな気分にさせられるんやんけ。


「……それっていつなん?」

「あ? ああ、まだ詳しいことは聞いてへん」

「ふーん……」


 読んどる本から目も離さへん。恐ろしいくらいいつも通り。俺の見合いすらお前の中では本以下か。
 ……クソ。アホらしなってきた。


「風呂入ってくるわ」

「おー。じゃあ俺、先に布団入っとく」


 俺が風呂場に向かうと、花月は携帯を手に取って立ち上がった。珍しく操作しながら歩いとるんが気になってそれを目で追うとると、花月は携帯を耳に当てて、誰かに電話をかけだした。
 こんな時間に誰に電話すんねん。しかも俺が風呂入る言うて、おらんなったのを見計らったようなタイミングで。
 追いかけて、問い質したい。でも花月は寝室に入ってしまって、ドアは閉まった。何やこの締め出されたみたいな気分。

『もしもし』

 そう言う花月の声が、小さく潜められたそれで。俺の意思とは裏腹に、俺の足は風呂場に向かった。


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