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「は? 見合い?」
「まあ、断るけどな。会うだけ会うて、相手さんには納得してもらう」
淡々とした口調の結城に腹が立つ。見合いて何やねん。お前は俺がおるのに見合いすんのか。しかも俺にそんな何でもないように言うてくんなや。
でも、何も言えへん。結城は立場のある男やし、きっと仕事で必要なことなんやろう。
「なんか仕事の関係? 大変やな。あ、お前怖い顔して女の人ビビらすなよ」
俺の口から出て来たんはいつも通りの可愛げのないセリフ。でもこれでいい。見合いなんか嫌やって言うてしもたら、結城を困らせるだけや。
「……それっていつなん?」
「あ? ああ、まだ詳しいことは聞いてへん」
「ふーん……」
興味のない態度出来てる? 不機嫌な顔になってない? できるだけ表情を見られたくなくて、本から視線を動かさんようにした。今、結城の顔を見たら、俺はきっと我慢出来ずに不満を漏らすやろう。
「風呂入ってくるわ」
「おー。じゃあ俺、先に布団入っとく」
助かった。
そうや。今のうちに鈴音さんに電話してみよう。鈴音さんやったら、結城の見合いの日取りも知っとるかもしれん。もし知らんくても、調べて教えてくれるかも。
携帯のメモリから鈴音さんを探す。発信ボタンを押して、耳に当てると割とすぐに鈴音さんは電話に出てくれた。
「もしもし」
『かづっちゃんから電話なんか珍しいじゃん。どうしたんだ? 困りごとか?』
後ろ手に寝室のドアを閉めながら、何て言おうか迷う。こんな下らんこと、あの鈴音さんに尋ねるんなんか俺くらいなんやろうな。
「結城の、見合いの件なんですけど……」
『あー……やっぱ巽さんとこに話行っちまったか。ごめんなー、かづっちゃん。いくら仕事とはいえ、良い気はしねーだろ』
「あ、鈴音さん、事情を知ってはるんですか?」
『最初はタロんとこに来てたらしいんだけど、あのアホ犬がワガママ言ってさ。じいちゃんが頼むのっつったら立場的にも年齢的にも巽さんだけじゃん。巽さんにはかづっちゃんがいるっつーのに……ほんとバカ犬』
アホとかバカとか言われてんのって、狼さん……やんな。ヤバイ。これで鈴音さんが狼さんのことを怒ったら、また……号泣ちゃうん。こわすぎるー!
『その見合いのことで何か俺に頼みだった? 相手のこと探るとか?』
「いや、その……日取りを、聞けたらって思って」
『あ、乗り込む? ぶち壊しに行くのはあんまりオススメしねーけど』
「そういうんやなくて、ただ……何か、知っときたいって思っただけで」
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