ヤキモチ
「主任、俺ずっと思ってたんですけど」
「あ?」
「課長って榎並が好きなんですかね」
「……はあ?」
またこいつはおかしな事を言い出したぞ。課長が榎並を、好きだぁ? ありえねぇ。榎並がどうこうじゃなくて、課長が誰かを好きになるってことがありえねぇ。
「俺ら同期の中で、課長に同行してもらったのって榎並が一番多いんですよ。榎並は『俺が落ちこぼれだからだ』とか言ってたけど、俺はそんな風には思えないし」
まあ、榎並の営業成績が特別落ちこぼれてるってことはねぇな。島崎が頭一つ出てるってのは確かだが、あとはトントンってとこか。
「何だよ。俺の同行じゃ不満だってか?」
「そ! そんなこと言ってないじゃないですか! 俺は主任に同行してもらうのが一番嬉しいですよ!」
もう! とか言って怒ってる顔をわざと作ってる島崎。なんでお前ほんとそんな可愛いの。
「こないだ送別会あったじゃないですか。派遣の事務さんの」
「ああ、あったな」
「あの時、榎並が先輩達に飲まされて結構酔ってたんですよ。もう酔い潰れたに近いくらい」
「そういうの適当にあしらえないよな、あいつ。馬鹿正直というか、真面目すぎるというか」
その点島崎は、相手が上司だろうとサラッと躱して逆に相手に飲ませるくらいのことは出来る。営業として、将来有望だよな。
「まあそれが榎並の良い所ですよ。というか、本題はここからです。なんと、酔い潰れた榎並を課長が面倒見るって言って一緒に帰っちゃったんですよ! すごくないですか!」
「は、まじで? 何で俺それ知らねぇの?」
「……主任はその時事務さんに呼び出されて告白されてたからでしょ」
「何でお前がそれ知ってんだよ」
「やっぱり告白だったんですね。何で俺に隠してたんですか? やましいことが無いなら俺に言えるはずです」
「何もねぇよ。ちゃんと断ったし。隠してた訳でもねぇし。そんなことわざわざ他人に言うことじゃねぇだろうが」
「事務さんと笑顔で戻って来ましたよね。ただ断っただけじゃないんでしょ。何かしたんでしょ。正直に言って下さい」
「何もしてねぇって。普通に断って、次の職場でも頑張れって言っただけ。大体あんなの告白とも言わねぇよ」
「……今までの派遣の事務さんも、主任に告白してったらしいじゃないですか。今回で3人目なんでしょ。ていうか、社内合わせたら両手では足りないくらいらしいじゃないですか」
「らしい、らしいって何だよ。誰から聞いた? んな馬鹿なこと」
「平川主任です」
「また礼司かよ。クッソもういいってのあいつの話は流せ!」
「でも事実なんですよね?」
「知らねぇ。人数なんか覚えてねぇ」
「覚えられないくらい多いんだ……主任がモテるの分かってましたけど、入社して6年でそれって……」
「あーもーうるせえ! 全部断ってるっての。大体社内の人間とどうこうなる気はなかったんだよ、俺は」
「え、でも俺……」
「だからお前は特別なんだよ。直属の部下となんざ冗談じゃねぇ。でも、それでも俺はお前と付き合ってんの。分かるか? そんだけお前にハマってんだよ。分かったらつまんねぇことでグチグチ言うな」
「主任……大好きです!」
大型犬みたいにじゃれついてきて、顔中キスされんのはいい。可愛いし。
けどお前、課長と榎並の話はどうなったよ。俺けっこう気になんだけど。
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