わんわん!
島崎が珍しくミスをした。取引先から受け取った書類を紛失したというのだ。もしかしたらシュレッダーで細断してしまったのかもしれないと、俺は小さな破片を一枚一枚確認していく。その書類には色が付いているため、破片があればすぐに分かることだけが不幸中の幸いだった。
「だあー! 見つからねぇ!」
「すみません! こんな時間まで付き合わせてしまって本当に……」
「謝罪なんかいいから、お前はもう一回鞄なりデスクなりを探せ。シュレッダーの中にねぇってことは細断してねぇってことなんだからな」
「はい! すみません!」
このまま見つからなかった場合、取引先にもう一度赴いて、謝罪して、もう一度書類に記入をして頂かないと。あとは始末書か。
そういや、島崎はまだ始末書を書かなきゃいけないようなミスってしてなかったよな。
書類を無くすなんて、あってはならないことではあるけど、必要以上に気にしてナーバスにさせるわけにもいかねぇし。適当にフォローもしてやらねぇと。優秀な奴に限って、小さなミスで無駄に落ち込みやがるからな。
「こっちには無さそうだ。そっちはどうだ?」
「……見つかりません」
「そうか。シュレッダーもしてねぇ、鞄にもねぇっつーんなら、全く別のとこにあんのかもな。お前、取引先行ってからの行動を順番に言ってみろ」
「はい、えっと……書類をいただいて、ファイルに入れて、鞄に入れたのは確かです」
「ファイルは規定のやつだよな?」
「あ、はい! もちろんコレに!」
バッと俺の前に出してきたのは、お客様に頂いた書類を入れるように決められたファイルだ。誤シュレッダーが無いように、他の書類と分けるためだ。
「個人情報を含む書類でしたので、その足で真っ直ぐ帰社しました。その後、主任に口頭で報告して、事務さんに書類不備が無いかを確認してもらって……」
「事務に提出したのか?」
「いえ。事務さんと話している時に係長が来られて、その書類を見られて……一人で契約を取って来れるようになったのかと、褒めて下さって、色々お話しして……で、デスクに戻って、気付いた時には一枚なかったんです」
「なるほど。よく分かった。帰るぞ」
「え!」
「これ以上ここで書類を探しても意味はない。おそらくは係長が持ってるだろうから、明日確認する。もし係長が持ってなくて、まじで紛失してたんだとしたら、俺も取引先に一緒に行って頭下げてやるから。今日は、とりあえず帰るぞ」
「主任……」
島崎が不安げな頼りない顔をしている。思わず頭でも撫でてやりたくなるような表情だ。
これだから係長の大雑把な性格は嫌になる。どうせあとで自分に回ってくる書類だからと、深く考えず島崎にも何も言わず持ってったんだろう。
最初から、その可能性を疑っていれば良かった。シュレッダーを漁るなんて時間の無駄にも程があるぜ。
「大丈夫だ。99%係長が持ってるよ。安心しろ」
「でも……」
「俺の言うことが信用出来ねぇか?」
「そんなことは……」
「じゃあ、帰るぞ。あーあ、腹減った。そうだ。なんか作りにうち来てくれよ。お前って料理まじ上手いのな」
俺が笑ってそう言うと、パッと輝くような笑顔になる島崎。
「何食べたいですか?」
「肉」
俺の一言で声を出して笑う。あー、ほんとコイツって可愛い奴。
少し高い位置にある島崎の髪をグシャグシャとかき混ぜた。『うわ、セットが』とか何とか口では言いながらも、嬉しそうに笑っていることを顔を見なくたって俺は知っている。
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