06




 すぐに消えて無くなりそうな理性をなんとかつなぎ止めて、優しく、優しくと頭の中で唱え続けた。傷付けないように、慎重に。
 でも、最後まではやっぱ理性が保つことはなかった。初めて男に抱かれた幸介に無理をさせてしまっただろう。

 気を失ってしまった幸介の身体を、温水で湿らせたタオルで拭く太一の耳に、幸介の小さな声が届く。


「……そ、いちろ……」


 幸介の顔を見る。眠っているはずの目から、うっすらと涙が流れた痕があった。


「……なんだ。そういうことか……」


 自嘲的な笑みを浮かべる太一。
 自分に抱かれたあと、泣きながら呼ばれた他の男の名前。笑うしか、なかった。

 うすうすは感づいていた。幸介が宗に対して他とは少し態度が違うことを。幸介がたまに宗を見ていることも気付いてた。だって、俺だって幸介を見てきたんだから。

 最悪だ。……抱いた喜びなんかあったもんじゃない。何が『後悔するよ』だよ。……そんなの、俺がしてる。

 宗の代わりか……俺は。

 幸介に自分の寝間着を着せ、布団をしっかりと掛けて、太一は寝室を出た。熱いコーヒーをいれ、ソファに腰掛ける。


「……泣いちゃうよー、俺も……」


 俺は、幸介を汚す手助けをしたんだ。幸介は……汚されるために俺に抱かれたんだ……。
 俺は、1人でいるのが嫌だから、誰かといる。俺といてくれる誰かが、俺に抱かれたいと望むから抱く。そこには何の感情もない。ただの義務のように、機械的にするセックス。
 だからこそ、幸介は俺を選んだ。汚い俺に、汚されたかったんだ。


「馬鹿みてぇ…」


幸介に、…好きな子に、そんな役として選ばれるなんてな…。


「俺がやったこと…やってきたこと、全部…消したいよ」


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