06




 次の日、狼は性懲りも無く街をブラブラと歩いていた。そんな狼にまた背後から近づいてくる足音。


「こンの……っ、バカ犬がぁー!!」


 バシーンッ!

 小気味よい音を立てて、狼の後頭部に平手打ちが入った。


「……い、ってぇ」

「いってぇじゃねぇよ! このバカっ! どんだけ心配させりゃー気が済むんだよ!!」


 狼の正面に回ってガーッとキレて怒鳴るリン。狼はリンに会えたことで自然と笑みがこぼれた。


「あん? なに笑ってんだよ。俺は怒ってんの!テ メー俺がトイレ行ってる間に病院抜け出しやがって、どーゆー了見だコラ。普通はお礼言うだろ、お・れ・い!」

「……?」

「人が何時間も付きっきりで側にいてやったっつーのによ。いきなりいなくなるし! 心配してずっと探し回ってたのに、本人はいつも通りフラフラ歩いてるし! なんか言うことあんだろ! 2つほどよー」


 ここまで言われて、やっと昨日リンに会えたことが夢ではなかったと分かった狼。
 おまけに自分を心配して文字通りずっと探してくれていたようだ。綺麗な茶色の髪はボサボサだ。


「2つ……?」

「おう」


 言うこと……2つ……。


「……ある」

「おー」

「好きだ。友達になってくれ」

「……あ?」


 好き……。
 あぁ、『好き』ってこんな感じか。

 好きだ。
 俺、リンが好きだ。


「リン、好きだ」


 狼はリンに笑いかけ、そしてその小さな体を抱きしめた。


「なんだよもー、ちげーだろ。『ごめん』と『ありがとう』だろーがよ」

「ごめん、好きだ。ありがと、リン。好き、好きだ」

「わーったよ! 連発すんな恥ずかしいっ!」

「じゃあ……、友達になって?」

「おうっ! たりめーだろ。てかお前、いい加減名前教えろよ?」

「…………」

「また拒否!? ……どーした? 傷が痛むのか?」


 ギューっと抱きしめてくる狼の頭に手を伸ばし、リンはその赤い髪を撫でた。


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