05
「おいっ!」
「…………」
「目を閉じるな! 俺を見ろ!!」
「……?」
「そうだ! ずっと俺を見てろ!」
……ああ。
ずっとお前を見てる。
会えてよかった。
リン……。
『嬉しい』って、こんな感じ……なんだな。
リンは着ていたパーカーを脱いで体温の下がっている狼の背にかけた。
そして、刺傷を両手で圧迫する。
「リ、ン……」
「話ならあとで聞くから! 今は喋るな! 誰か! 救急車を呼んでくれっ!!」
「……リン……」
「大丈夫だ! おいっ! 誰か早く救急車呼んでくれよっ!! 早く!!」
「リ……」
「おいっ、目を開けろ! おい!! ……っ! 救急車ー! 頼む! 誰かっ! 早くーっ!!」
会えてよかった……。
嬉しい……、嬉しい……。
狼はそのまま意識を失った。
それから10分ほど経った後、救急車が現れ、狼に付き添ってリンも救急車へと乗り込み病院へと向かった。
狼が目を覚ましたのは緊急手術が無事に終わってから6時間後のことだった。
「……。……どこだ?」
起き上がろうと身じろぎすると走る痛み。そのおかげで自分に何があったのか思い出した。
そうだ。刺されて……。
……ここは病院か。
あいつに会えたのは……夢だったのかな……?
リンはその場にいなかった。
狼はそれを悲しいと感じながら、会いたいと思った時に会えるなんて都合が良すぎる。ただの願望が見せた夢だったのだ。と、妙に納得もしていた。
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