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「野田狼だっ!!」


 誰かがそう叫んだ。
 すぐに集まる少年への視線。走って逃げる者や、少年の視界に入らないように隅で縮こまる者、睨みながらも手を出すことができずにいる者。様々である。

 野田狼と呼ばれたこの少年は、五代目野田組組長の実孫で六代目の最有力候補である。
 190センチを越える長身に、見るからに筋肉が付いていると分かるガッシリした身体。大きな身体をさらに大きく見せる逆立った赤髪が彼のトレードマークだ。

 ヤクザのことなど意識したこともないような人間であろうとも名前だけは知っている『野田組』の人間で、この風貌。野田狼の名はこの辺りではよく知られ、恐れられていた。

 恐れられていたのは何も名前や外見からだけではない。
 人々が野田狼を恐れるのは、その強さと容赦の無さが一番の要因と言える。


「こいつらも……壊しちゃお……」


 辺りに暴走族やチームに所属しているような不良ばかりがいるその場で、次々とそれらを無表情で殴っていく。


「壊れろ……全部なくなれ……。全部……全部……」


 狼が殴った20人を越す人間が辺りに倒れている中、彼は静かにただ佇んでいた。何も映っていないような虚ろな目が、人を殴ることに対して何も感じていないことを証明するようである。
 道行く人々が関わりを持たないように、自分に火の粉が飛ばないように、遠巻きに過ぎて行くにも関わらず、小柄な少年が興味深そうに狼のそばに近寄って行った。


「これ全部お前がやったのか? えげつないなー、お前」


 その場にそぐわない明るい声。怯えることもなく狼に向けられる言葉。笑顔。


「何だお前……お前も壊れるか……?」

「あ? 壊れる? あー、確かにこのやり方は殴るっつーより壊すっつー方が近いかもな」

「壊す……」


 狼がその少年に振り下ろした拳を、少年は右手で受け止めた。


「!」

「かぁ〜! 腕まで痺れやがる。強ぇなぁお前!」

「何だお前……」

「俺、リンっつーんだ! お前は?」


 リンと名乗った綺麗な緑色の瞳をした少年は輝くような笑顔を狼に向けた。


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