01
うぜぇ……
うぜぇ、なんもかんもうぜぇんだよ……!
全部……壊れちまえよ……
全部、全部……
……壊しちゃお……
「……ヒィッ……! 若すんません! 許してください! 許しヴッ……! ゴホッ……ガ……ァ……」
「許す……? 許すってなんだ……。壊すんだよ。なんもかんも全部、全部。お前も、壊れろ。俺に……壊されろ……」
指定暴力団、五代目野田組本家の日本庭園を思わせる美しい庭。
そこに苦痛に顔を歪め、涙や血や涎でグチャグチャの男がうずくまっている。頭を抱え、膝を丸めて精一杯自分の身を守りながら。
「全部壊して、壊して……うぜぇもんなくして……すっきり……」
ボソボソと口を動かす少年は、狂ったようにうずくまる男を蹴り、庭に配置された木々や岩なども崩していく。グチャグチャに。
上半身に何も纏っていない少年の背中一面には菩薩の彫り物。色の入っていない未完成の菩薩は全くの無表情。まるでこの少年のように生気が感じられない。
その場にいたヤクザの構成員でさえ、誰も手が付けられないほどに暴れる少年の肩に、グッと手が置かれた。
「……ハァ、またかよ……」
「若、まただなんて言わんでおくんなせぇ。子分共もえらくビビってんでさぁ。このへんにしてやって下せぇ」
「離せ……出てくる」
「へい! 行ってらっしゃいまし!」
このおかしな話し方をする男は、野田組のナンバー2と言われる田辺清次だ。まだ若いが、組員からの信頼は厚い。清次に渡されたシャツを着て、少年は外へ出て行った。
「しょうがない奴じゃのぉ。おぅ清次、狼にやられた奴の手当してやれ」
「へい、組長!」
「外で何もせんかったらいいんじゃが……。……無理かの」
「若ならきっとすぐに春休みで浮かれた奴らを殴りまさぁ」
「……じゃろうな」
- 74 -
*前 | [次#]
[戻る]