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「ただいまー」

「あっ、帰ってきた!」


 寮の自分の部屋の扉を開けて、中に声を掛けると、同室者である晴太がパタパタと小走りで玄関先にやってきた。


「どこ行ってたの? 心配したんだからね!」


 晴太は玄関先で仁王立ちになって怒っている。全くと言っていい程、迫力はない。事情を説明しながら、晴太の横を通り抜けてリビングに向かう。


「ごめんごめん。屋上で寝てたら、思ったより時間経っててさ。……あ、神楽坂来てたんだ。いらっしゃい」


 リビングに入るとソファに晴太の恋人の神楽坂が座っていた。
 俺と神楽坂と晴太は中等部からずっと同じB組で、ずっと友達。晴太と神楽坂はもう2年以上付き合っている。


「おぅ。おかえり」

「ちょっと! そんな普通に挨拶してる場合じゃないよ! 屋上に入ったの? 誰にも見られてない?」


 また小走りでリビングのソファへやってきて、なんだか焦りながら迫って来る晴太。


「え? あぁ、神宮寺先輩がいたけど? すごいよなぁ。俺あんな有名人と喋っちゃった」


 晴太が妙な態度なのは一先ず置いておいて、今日あった出来事を話す。
 しかし、晴太はそれを聞いた途端にそれまでより慌て始めた。


「えぇぇええ!?」

「なに、晴太声でかいよ」

「じ、じじじんぐうじせんぱぱいいたのっ!?」


 どんだけどもるの。


「いた。で、一緒に寝てた」

「えぇええ!?」

「だから声でかいって。まぁ確かに驚きだけどさぁ。でも面白い人だったよ」

「晴太、落ち着けよ。とりあえず神宮寺先輩の話は置いとけ。心配してたのはそこじゃねぇだろ」


 テンパっている晴太とは対照的に、神楽坂はとても落ち着いている。いつもクールで頼れる奴なんだ。


「え、なに?」


 心配していたこと、というのが分からずキョトンとしてしまう。


「そうだった! 屋上に入るの親衛隊には見られてない!?」

「親衛隊? 神宮寺先輩以外は誰もいなかったよ。屋上に入る前は、分からない。たぶん大丈夫だと思うけど」

「よかったぁ〜! 本当に心配したよ。あのね、高等部の屋上は暗黙の了解で神宮寺先輩のものってことになってるの。神宮寺先輩に会う目的で誰かが屋上に行かないように親衛隊が見張ってるって聞いたことがある。だから、もう行かないで」


 本当に安心したように、ソファにへたり込んだ晴太。そして、真剣な顔をして、屋上へもう行かないように説得してくる。
 親衛隊の恐さは俺だって分かっている。幼稚舎から宝生に通っているんだし。制裁を加えられれば、どうなるか詳しくは知らなくとも、その恐ろしさだけは理解しているつもりだ。
 しかし、だからと言って『はい、行きません』という訳にはいかない。


「でも俺、また屋上に行くって神宮寺先輩と約束したんだよ」

「だめだよ! 親衛隊に見つかったらどんな目に合わされるか……」

「そうだぞ。リンチでもまだマシな方なんだ。レイプでもされたらどうするんだ」

「レイプ……」

「今までも集団で襲われた奴が何人もいる。親衛隊に目を付けられたら、肉体的にも精神的にもボロボロにされる。……約束だろうと屋上には行くな」

「お願い千秋! 行かないで! ね!?」


 男にしては身体が小さい俺。しかも大人数から自分を守る術なんて持ってない。
 晴太と神楽坂が必死で止めるのも当然だ。


「……うん。分かったよ。屋上には行かない」


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