03




「……あれ?」


 あれ? 寝てた?
 そういや……神宮寺先輩は?


「あ……起きた……」

「え……あ、えぇええ!! 顔近っ!」


 目を開けて寝返りを打った途端、目の前には至近距離で先輩の顔。しかも頭の下には先輩の腕があった。
 俺は驚きを隠すことができずに、大声を上げて飛び起きた。

 ビ……ックリしたぁ! 腕枕って! なぜに腕枕!? 飛び起きちゃったよ! 顔近いよ! あの美形の顔が!
 えぇー!? なんで泣きそうな顔してんの?


「ん……」


 なに? 腕?
 まさかまたそこに頭置けと? またその美顔を間近で見ろと?


「……おかえし」


 『お返し』?
 あぁ、膝枕のお返しに腕枕してたんだ。
 ちょっと……何その目? 何その期待に満ちた眼差しは?

 ……しょーがない。


「じゃあ、ちょっと失礼しますね」


 ついに折れる俺。先輩の腕に頭を置いて、向き合う形で横になる。
 それに先輩は満足そうに笑った。
 心臓に悪いよ。ほんと。


「背中……」

「……あぁ! 分かりました」


 背中ポンポンされるの、好きなんだなぁ。
 あー、この体勢じゃ顔見れないや……きっと可愛い顔して笑ってるのに。


「それ……きもちい……」

「それはよかった。また寝ます?」

「んー……あ。……まあいーや……寝る」

「なんか用事あるなら行かなきゃ」

「いい……生徒会だし……」

「それは行って下さい! ……コラ、その『えー』とでも言いたげな顔は何ですか。ほら、起きて下さい」


 俺は先輩の腕枕から起きあがって、先輩にも起きるよう促したんだけど……。


「嫌……」


 即答。


「嫌じゃない。……あー、ほら、飴あげますから」


 ブレザーのポケットに入っていた飴を2つ取り出して、先輩の前に差し出した。……あ、もう高3にもなる人に飴あげるはなかったか。いくら、可愛いからってさすがに飴で……。


「いちごあめ……くれるの……?」


 これまでにないほど嬉しそうな表情をする先輩。視線が飴に注がれる。
 喜んじゃってるよ! この人!


「あげます。だから生徒会頑張って下さい。ね?」

「うん」

「よし、えらいえらい!」


 今度は素直に起きあがって苺飴を2つとも口に含んでいる先輩の頭を、まるで子供にするように撫でた。いや、撫でてしまった。
 ……その時。

 うわ、笑った……っ。
 すごい、可愛いっ!


「ねぇ……名前、なんだっけ……?」

「あ、安藤千秋です。よろしく、神宮寺先輩」

「チアキ……悠仁……」


 ……うん? 何で単語でしか話さないんだろう。


「あ、悠仁先輩の方がよかったですか?」

「先輩……いらない……」

「いや、さすがに呼び捨てはちょっと」

「先輩だったら……返事、しない……」


 子供!?


「分かりましたよ。悠仁って呼べばいいんでしょ」

「うん」


 またその笑顔かー!
 もういいよ。それにはなんかもう勝てないし。


「チアキ……また、来て……?」

「あ、はい! もちろん」

「これ……あげる……」


 首から皮の紐でぶら下げていた2つの鍵の内、1つを外してスラックスのポケットにしまい、紐に通されたままの鍵を俺にくれる。


「鍵?」

「うん……そこの……チアキにだけ、あげる」

「じゃあこれで、いつでも入れますね!」

「うん。じゃあ……」


 俺が鍵のペンダントを首から下げたのを確認して、悠仁が立ち上がった。


「あ、生徒会行くんですね。俺も教室戻ります」


 気付けば今日の授業は全て終わっている時間。とりあえず、荷物だけ取りに教室へ向かった。


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