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 いつものように14階で降りて、太一の部屋に入った。違うのは、部屋に入ってもキスすらせず、リビングのソファに座ったことか。


「それで……何があったの?」


 太一は、冷えたお茶の入ったグラスの1つを僕に手渡してくれた。そして、僕が座っているソファではなく、隣の1人掛けソファに座った。
 いつもなら僕が座っている2人掛けソファの隣に座って僕の身体に触れてくるのに。


「何もねーよ。呼んだらすぐ来んのかなって思っただけ」

「行くよ、どこでも」

「……ま、5分以内に来たし、付き合うか」


 お茶を飲みながら、さも当たり前のことのように、サラッと言う。さっきの呼び出しは僕の中で、賭けみたいなものだった。僕のためだけに急いで太一が来てくれるのか、試したんだ。


「……は?」

「なんだよ、不満か? 俺と付き合いたいんじゃなかったのかよ?」

「いや、付き合いたいけど! 昨日の今日だし!」

「まぁさっきふっきれたってことで」

「本当に?」

「マジマジ」

「俺んとこに来てくれんの?」

「うん」


 僕はソファの前に置いてあったメンズファッション誌をパラパラ見ながら答える。


「……ほんとかよ」

「なぁ、そっち行っていい?」


 雑誌をテーブルに戻し、太一の答えも聞かずに、太一の膝の上に向かい合わせに座った。


「……なに緊張してんの? お前」

「いや、だってなんかさぁ」

「ちゃんと抱きしめてよ。座りづらい」

「あ、うん」


 ……あ。なんか……。


「やっぱ居心地いいな、お前って」

「居心地?」

「俺がいてもいい場所って感じ」

「当たり前じゃん。幸ちゃんのためにいんだから」

「なーに口説いてんだよ」

「幸ちゃんが落ちるまで口説く」

「……もー落ちてるよ」

「え……」

「キスしよ、太一」


 太一が何かを我慢しているみたいな顔で、僕にキスをした。


「なに泣きそうな顔してんだよ?」

「……幸せすぎて。やっと幸ちゃんが俺んとこに来てくれた……」


 太一はさらに力を込めて僕を抱きしめた。太一の喉元に顔を埋めて言った。


「なぁ、太一。口が悪ぃ俺とブリッコしてる俺、どっちが本当の俺だと思う?」

「幸ちゃんは幸ちゃんだし。俺からしてみれば、どっちの幸ちゃんも可愛いし、どっちの幸ちゃんも好き」

「俺……お前の前ではただの"俺"でいていいかな?」

「俺はどんな幸ちゃんも愛しいと思うよ」

「太一……」

「大好き。幸介」

「俺も好きだ、太一」


 セフレになって2年ちょっと。だいぶ遠回りしちゃったな……。
 太一はずっと僕を見ていてくれたのに。

 これからは僕も、太一を見ていくから。
 これからも僕を見ていて。


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