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 実際に紹介されたのは、しばらく経ってからだった。僕たちが中3に上がる直前の春、僕が生徒会役員になることが決まった日のことだった。


「何で俺が役員になんかにならなくちゃなんねーんですか」

「ランキングにも入っているし、成績も家柄も申し分ない。どうか俺の下で働いてくれ」


 圭吾はそれまでは学園で僕と接点を持とうとしなかった。もちろん僕も話しかけようとすることはなかったし、わざわざ学園内で話す必要がなかった。
 それなのに、この役員の任命。
 驚きが大きかったけど、妙に納得する自分もいた。今度はここに、"自分"を見る人間を集めたかったんだ。なんとなくそうだと思った。


「坂元君、私は今期も副会長をすることになった大木宗一郎だ。1年間よろしく」

「あぁ、幸介でいいよ。よろしく、宗一郎」

「坂元君、俺の方からも紹介しておく」


 宗一郎の前だからか、圭吾は初対面のように振る舞っていた。それに合わせて僕も、初対面の振りをした。口の悪かった僕が敬語らしきものも使っていた。


「幸介でいいですよ」

「……まぁ、知っているとは思うが、宗は俺の執事でもある。俺を最優先に動くことが多い。そのことを了承しておいてくれ」

「執事ねぇ……桜井のお坊ちゃんには執事がついていると聞いたことはあったけど。宗一郎のことだったのか」

「知らなかったのか?」

「興味ねーすよ。んなもん」

「知らない奴がいるとはな。まぁいい。あと、副会長に吉住太一と会計に……」


 この頃の僕は、興味がないこと、必要のないことは覚えない性格だった。圭吾の話はそっちのけで別のことを考えていた。

 そう、宗一郎のことを。

 宗一郎は圭吾を"圭吾"として見ていないことは明らかだった。宗一郎にとって圭吾は"主人"以外の何者でもないのだから。
 やはり圭吾の周りには、圭吾を特別視する人間しかいないのだなと思った。

 僕も含めて。


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