04




 目深に被っていた帽子を取り、テーブルの上に置いた。現れた顔はやはり、宝生学園中等部の生徒会長で、桜井財閥嫡男の桜井圭吾だった。


「つまらないんだ。あの中にいても。いつも遠巻きに俺を……"桜井圭吾という人間"を見る連中。理想を押しつけてくる連中。あの中には、"俺"を見ている奴は1人だけだ。それで街へ来た。……ガキ臭いと思うか?」

「いや……俺は今、お前を見ているのか? お前の言う"お前"を」

「あぁ。今の俺が"俺"だ。……たぶんな」

「じゃあ俺も、お前をキヨって呼ぶよ。学校にいる"桜井圭吾"に興味はないけど、"お前"には興味が湧いた」

「そうか。……幸介、俺と楽しいことを始めないか?」


 そう言って、圭吾は歯を見せて笑った。
 この時の圭吾の笑顔は、僕が見た中で、一番楽しそうな顔だった。


「好きだなお前、楽しいことってやつ。付き合ってやるよ。お前が楽しいって言うならな」


 こうしてこの日、僕と圭吾はチーム"gadget"を作った。学園を抜け出して街へ行く度にケンカをした。
 チームは少しずつ人数が増えていった。50人を超える頃には、みんなが圭吾を"総長"と呼ぶようになった。

 圭吾と行ったカフェ"RINK"はgadgetのたまり場になった。
 100人ほどになる頃にはチームを4つの隊に分け、4人の隊長の上に総長を置いて統率をとるようになった。僕はチームのナンバー2として1番隊の隊長になった。いつだったか圭吾が連れてきた銀次も隊長になっていた。


「なぁ、キヨ。お前の言う楽しいことってケンカすることなのか?」

「……どうだろうな。最初は、何も考えずにバカ騒ぎする仲間を得たくて始めたことだったが……いつの間にかここも、あの中と変わらなくなってきたな」

「今度は"キヨ"を理想化する連中に囲まれて、か?」

「……あぁ」

「結局お前は、その中でしか…いや、お前の周りは、"そう"なってしまうんじゃねぇかな」

「…………」

「誰もがお前を優れた人間だと離れた場所から見る。誰もがお前のようになりたいと羨むけど、お前はある意味……不幸だな」

「不幸、か」

「ずいぶん前に言ってた学園で本当のお前を見ている1人、って誰なんだ?」

「あぁ、また紹介しよう。……だが、お前はあいつも俺を見ていないと言うかもしれないな」


 そうして出会った。

 圭吾の執事、宗一郎に。


- 41 -



[*前] | [次#]
[戻る]


×
「#エロ」のBL小説を読む
BL小説 BLove
- ナノ -