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目深に被っていた帽子を取り、テーブルの上に置いた。現れた顔はやはり、宝生学園中等部の生徒会長で、桜井財閥嫡男の桜井圭吾だった。
「つまらないんだ。あの中にいても。いつも遠巻きに俺を……"桜井圭吾という人間"を見る連中。理想を押しつけてくる連中。あの中には、"俺"を見ている奴は1人だけだ。それで街へ来た。……ガキ臭いと思うか?」
「いや……俺は今、お前を見ているのか? お前の言う"お前"を」
「あぁ。今の俺が"俺"だ。……たぶんな」
「じゃあ俺も、お前をキヨって呼ぶよ。学校にいる"桜井圭吾"に興味はないけど、"お前"には興味が湧いた」
「そうか。……幸介、俺と楽しいことを始めないか?」
そう言って、圭吾は歯を見せて笑った。
この時の圭吾の笑顔は、僕が見た中で、一番楽しそうな顔だった。
「好きだなお前、楽しいことってやつ。付き合ってやるよ。お前が楽しいって言うならな」
こうしてこの日、僕と圭吾はチーム"gadget"を作った。学園を抜け出して街へ行く度にケンカをした。
チームは少しずつ人数が増えていった。50人を超える頃には、みんなが圭吾を"総長"と呼ぶようになった。
圭吾と行ったカフェ"RINK"はgadgetのたまり場になった。
100人ほどになる頃にはチームを4つの隊に分け、4人の隊長の上に総長を置いて統率をとるようになった。僕はチームのナンバー2として1番隊の隊長になった。いつだったか圭吾が連れてきた銀次も隊長になっていた。
「なぁ、キヨ。お前の言う楽しいことってケンカすることなのか?」
「……どうだろうな。最初は、何も考えずにバカ騒ぎする仲間を得たくて始めたことだったが……いつの間にかここも、あの中と変わらなくなってきたな」
「今度は"キヨ"を理想化する連中に囲まれて、か?」
「……あぁ」
「結局お前は、その中でしか…いや、お前の周りは、"そう"なってしまうんじゃねぇかな」
「…………」
「誰もがお前を優れた人間だと離れた場所から見る。誰もがお前のようになりたいと羨むけど、お前はある意味……不幸だな」
「不幸、か」
「ずいぶん前に言ってた学園で本当のお前を見ている1人、って誰なんだ?」
「あぁ、また紹介しよう。……だが、お前はあいつも俺を見ていないと言うかもしれないな」
そうして出会った。
圭吾の執事、宗一郎に。
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