11
「……おい、泣いてんのか……?」
「……俺っ、欲求不満であんなことしたんじゃねーよ。ナルチャンだから、ナルチャンが好きだから……好きならやっていいって訳じゃねーけど……、どーでもいー奴でいんの、辛いんだよ。ちょっとでもいーから……俺のこと見てくれよ……っ」
「俺が好きってお前……付き合ってる奴いるじゃねーか」
「いねぇよ……いる訳ねぇじゃん……。もう3年も右手が恋人だよ、チクショー……」
「じゃあ、お前、原田はなんなんだよ?」
俺は急に出てきた名前が分からなくて、やっと顔を上げ、少し離れた場所にあるソファに座っているナルチャンを見た。
涙でグチャグチャな顔で。
「原田……? って誰?」
「は? お前の彼氏……つか、彼女? ……だろ。お前の親衛隊の隊長の」
「あぁ、その原田……。付き合ってねぇけど、そんな奴と」
「何言ってんの、お前?」
「ナルチャンこそ、何言ってんの?」
「え? いや、だって付き合ってんだろ? 原田と」
「だから付き合ってねぇって。大体、集会でしか話したことねぇ奴と何で付き合うんだよ」
「……それ本当か?」
「何で俺が嘘付くんだよ。ナルチャンこそ、何でそんな勘違いしてんの?」
「原田が……本人が言ってんだよ。俺が授業しに行ったらいつも聞こえてくるぜ? 『昨日は銀次様と何回ヤった』だの『銀次様ってばヤキモチやき』だのってよ」
「はぁ?」
「こっちが、はぁ? だっつの」
「いや、こっちこそ、はぁ? だって。なんだよ、それ。あいつまさか妄想癖でもあんの?」
「……嘘、なのか?」
「当たり前だよ。俺、3年も恋人いねぇっつってんじゃん。ずっとナルチャンだけだよ」
「……本当か?」
「俺はナルチャン好きだってずっと言ってんじゃん。何で信じてくんねーの?」
「だってお前、原田が……」
「そっちが嘘だよ! 原田って何組? 今度文句言ってくるわ。親衛隊もやめさせる」
「……お前、マジで俺のこと……」
「好きだよ! 好きじゃなかったら役員になんかなってねぇ! 毎週会いに来たりなんかしねぇ! ……泣いたりなんか……しねぇよ!!」
「……寺門、おい、また泣くなよ……」
ナルチャンがソファから立ち上がって、俺の前に来てくれたけど、俺はまた下を向いて泣いていた。床に涙がポタポタと落ちた。
「頼むよ……俺を見てくれよ。好きなんだよ……。ずっと前から……好きだったんだよ……っ」
「分かった、分かったから、泣き止め。……ほらハンカチ貸してやるから」
泣いた顔を見られたくなくて下を向いたままでいると、ナルチャンが俺の顔を上げさせて、涙を拭いてくれた。
- 35 -
[*前] | [次#]
[戻る]