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日曜日の朝、俺は生徒会室のドアを開けた。ナルチャンが来た様子はない。ソファの真ん中にあるテーブルの上に、1週間分の資料が積んであった。
いつも役員が帰った後、こんな風に圭吾か宗が用意しているんだろう。そしてナルチャンは、ソファに座ってそれを読んで帰るんだ。
俺は自分の作業机に座ってパソコンを立ち上げた。昨日すぐ終わると思ってた予算案が、圭吾の話を聞いてから全然進まなかったからだ。
時刻は8時20分。日曜の朝から俺にしては頑張ってんだろ? 日曜なんざ、13時起きが普通の俺が。
本当は、寝れなかっただけだけど。
ナルチャンが来たら、まずなんて言おう。
『おはよう。こないだは……』
……とか? まずは挨拶から。でも挨拶してる間に帰られちまうかも。
来たら即行土下座するとか……。いや、でも俺が立ち上がったりしたらビビられるかもしんねー。
あ、ナルチャンが来るまで床に座って待ってりゃいいんじゃん。……そうしよう。
そう考えた俺が立ち上がって、ドアの方へ歩き出したその時、ドアが開いた。
「……寺門……」
「ナルチャン……! ごめんなさいっ! 謝って許されることじゃないけど、ほんとにごめん!」
俺はナルチャンを見た瞬間、光の早さでその場に土下座した。
「……もういいよ。お前も若ぇってこったろ。俺にまで手ぇ出して来やがって、まぁ年頃の男だっつーことで水に流してやらぁ。だから忘れろ」
「ごめん……」
「忘れろっつってんだろーが。大体謝る気があるならもっと早く来いってんだ。毎週用もねぇのに来てたくせによ」
「だって俺……ナルチャンに嫌われたと思って」
「……嫌うとかじゃねーよ」
「だよな……どーでもいーヤツ嫌えねぇよな…」
「いや、そーじゃなくてよ。まぁ、なんで俺にあんなことしたんだって不思議に……いや、もーやめよーぜ。この話は」
「…………」
「まぁなかったことにっつーか、忘れようや」
「…………」
「お前もそんなに気にすんなよ? んなとこ座ってねーで、仕事やれよ、ほら」
ずっとドアの前に立っていたナルチャンが、そう言いながらソファに座った。
でも、俺は地べたに座ったまま床を見つめ続けていた。立ち上がる気が起きない。
「…………」
「おい、寺門?」
「…………」
「なぁ、顔上げろって……」
「…………俺は……」
「ん?」
なんでだか涙が出た。
悔しくて?
悲しくて?
空しくて?
きっと全部で……。
あんなことをしても意識もされない自分。どこまでも生徒として、子供みたいにしか扱われない自分。でも、そんな風にしか見られないのも仕方ない、ガキな自分。
空しくて、悲しくて、悔しくて、涙が止まらなかった。
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