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またリビングのソファに座り、テレビを眺める。
……平常心、平常心、平常心、平常心、平常心……と唱えつづける私の頭にはアニメの内容など入っては来ない。
「そーちゃん、映画おひざだっこで見たいなぁ〜」
「はい、いいですよ」
平常心!!
……さっきからなんなんだ。拷問か? 褒美か? そろそろ何でもない振りが辛くなってきた。
触りたい。このサラサラの髪とか柔らかそうな頬とか細い腰とか真っ白な足とか……もう変態だ。私は変態に成り下がった。
頭を悩ませていると私の膝の上でなにやらモジモジと何かを言いたそうな光様。
「ねぇそーちゃん……あのね、そーちゃんは……あのね、あの……」
「なんでしょう?」
「そーちゃん、は……っ! 幸ちゃんのことがすきなのっ?」
「……はい? 幸介?」
「うん……」
なぜ幸介? ありえない……。
「どうして、そんな風に思ったのです?」
「だって……前におひざだっこしてた。おひざだっこは一番すきな子にするんだっておにいちゃんが言ってたもんっ」
『もんっ』
幸介が言うとウザイことこの上ないが、光様だとこの上なくかわいいな。というか、圭吾様はまた自分に都合のいい、いらぬ知識を光様に……。
「あのときは幸介が勝手に私の膝に座っただけですよ。私が膝だっこをしたいと思うのは、あなただけです」
「ほんと?」
「えぇ。私が一番好きなのは光様です」
告白、ではない。そんなことはできるわけがない。
私は将来、桜井家の執事長となる身だ。いつか……圭吾様にいわれた女性と結婚して、圭吾様のお子と同い年の虚しい子を持つ。
それが私、だ。
そんな人生が嫌なわけじゃない。
そもそも、光様との未来を望む方が……間違っているんだ。
「じゃあチューして〜?」
「……は……?」
ち、チュー!? チューって言ったこの子!? 意味を分かってるのか!?
「ぼくのこと一番すきなんでしょ? すきなもの同士はチューするんだって銀ちゃんが言ってた」
ぎーんーじー! なにを子供に教えとるんだ!
間違ってはいないけれど。確かに好きな者同士はキスするだろう。しかし…………え? 好きな者、同士……?
「ねぇ〜チュ〜」
「ゴホンッ、光様? あのですね、そう……チュー、は好きな者同士でするものです。私はあなたが好きですが……」
あぁ……これはさすがに告白になっている。キスと絡めて言ってしまったらもう言い逃れができない。
「ぼくもそーちゃんがすきだよ〜」
「え……」
「ぼく、そーちゃんのことが大すき! だからチューしよ? そしたらそーちゃんはぼくのものだって、銀ちゃんが言ってた」
……ぎーんーじー! 本当にお前はなにをっ!
「ねぇ〜チューしよ? ぼくをそーちゃんのものにしてよ」
なんですか、それは。
膝の上に向かい合わせに座って、首をかしげて、上目遣いで言っていいセリフではない! 必殺技ですか? 必殺技をあみ出したのですか?
もう……あなたが悪いんですからね……。
「ん……っ」
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