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 持ってきたお泊まり鞄の中を探りながら光様がおかしな声をあげる。


「あららぁ〜?」

「どうされました?」

「パジャマわすれちゃったぁ〜。そーちゃんの、かして?」

「はい、私のものでよければ」


 パジャマなんて……今それどころではないんです。今まさに光様とお風呂に入るという時に。
 半袖のTシャツでいいかな? ウエストが違いすぎて下は履けないだろうし。

 ……ついに風呂場まで来てしまった。やはりどうにかして逃げることはできないだろうか。おいしい状況ではある。しかし……光様の裸……いたたまれないっ!


「……さぁ、お身体が冷えます。浴室へ入ってください。私はお脱ぎになった衣類を鞄に入れておきますので」

「ありがと〜すぐ来てねぇ!」

「はい」


 あぁ……逃げられない。
 だが一緒に脱ぐというのは避けられた。

 私は光様の服を畳んで、お泊まり鞄にしまった。そのあと光様の着替えを手に脱衣場へ戻る。
 少しもたつきながら服を脱いだ。腰にタオルを巻いて、浴室への扉の前で仁王立ちする。

 よし……男は、度胸だ。

 意を決して扉を開けると、シャンプーで頭を泡立てている小さな背中が1つ。
 ……本当に小さい。


「そーちゃ〜ん。シャワー使ってもい〜い?せんめんきむずかしかったの」


 そうだろうな。そんな細い腕ではお湯の入った桶を頭の上まで持ち上げるのは大変だろう。


「熱い湯が出ては危険です。私が温度をみますから少々お待ちください」


 そう言って光様にかからないようにシャワーからお湯を出した。


「ねぇ〜そーちゃん、シャンプーながして〜」

「かしこまりました。では上を向いてください」


 光様の前に膝をつき、そう告げた。


「うえ〜? 下じゃなくて?」

「下を向くと苦しい思いをさせてしまうかもしれませんので……顔にかからないよう上を向いていてください」

「は〜い」


 細くて綺麗な色の髪。触れてみたいと思っていた光様の髪を、いま私が洗っている。


「ねぇ〜そーちゃん。こんどはぼくがあらってあげる〜」


 私の手からシャワーを奪い、可愛い笑顔で言う光様。そんな笑顔に逆らえる人間などいないだろう。


「もっとかがんで〜。はい、下をむいて、いきをとめてくださ〜い」

「はい。お願いします」


 私の髪を濡らしたあと、小さな手にシャンプーを取って、洗い始めた。
 椅子に座っている光様の目線と、地べたに座っている私の目線は、丁度同じくらい。目が合うと光様は微笑んで『かゆいところはありませんか〜?』と尋ねた。
 光様にシャンプーを流してもらい、お互いの髪にコンディショナーを馴染ませる。そしてお互いに髪を流し合い、背中も流し合った。そして2人で一緒に浴槽に浸かる。広い浴槽で良かった。適度に距離を置くことができる。


「湯加減はいかがですか?」

「いいくらいだよ〜」


 ……同時に風呂から上がるのは避けたいな。どうも着替えを見られるというのは耐え難い。いや、本当に……行為前の処女か、私は。
 もう先に出てしまおう。


「光様、今から100数えるまで温まってからあがってきてくださいね」

「そーちゃんはもうあがるの?」

「えぇ、光様のお着替えをうっかり出し忘れておりましたので、先に出て用意してきます」


 これは嘘だ。光様の着替えは脱衣場に用意している。1人で浴室を出るただの口実。


「そっかぁ。じゃあ、い〜ち、に〜い、さ〜ん……」


 よし。100秒以内に着衣を整えなければ! 素早く身体を拭い、部屋着を身につける。肌の手入れをしていたところで光様が出てきた。


「そーちゃん、100かぞえたよ〜。体ふいて?」

「はい」


 また自分との戦いの時間が始まった。お身体を拭いて、パンツとシャツを着させ、自分のTシャツをかぶせた。

 ……想像以上の破壊力……。真っ裸よりよっぽどエロイ……。濡れた髪、潤んだ瞳、上気した頬、襟元から見える肩、膝下だけしか出ない足……まずいな……。


「そーちゃんの、おっきいね」


 そんなセリフが別の意味に聞こえる。


「そーだっ! 今日見たいテレビあるの〜! アニメのね映画があるんだぁ〜。いっしょに見よ〜」

「はい。じゃあリビングへ戻りましょうか」


 平常心、平常心、平常心、平常心、平常心、平常心……。


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