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あとから現れた幸介が、圭吾様の膝の上に座っている光様を見た途端、突拍子もない行動をとる。
「あー光くん、圭ちゃんの膝に座ってるっ! かーわいい。じゃあ僕は宗ちゃんの膝にすーわろっとっ」
「はぁ!?」
なにをするんだこいつは。訳がわからん。何の対抗意識だ。光様がキョトンとしたお顔で見ておられるじゃないか。
「おい、幸介。ふざけるな。降りろ」
「ねぇ見て、宗ちゃん」
「なんだ?」
幸介が私にしか聞こえないように顔を近づけ、小さな声で話しだした。
「光くん、始めはただ驚いた顔だったけど、今は傷付いたみたいな顔してる。宗ちゃんが僕にとられたのが気に食わなかったのかな?」
「なに言ってるんだ、そんなわけ……」
そう言いながら私はそっと光様を伺い見た。
……本当だ。悲しそうな顔をなさっている。圭吾様も少し困った表情を……。
どうして……?
「ね? あの兄弟、似てない似てないと思ってたけど……表情は似てるんだね」
「当然だろう。血の繋がった兄弟なのだから」
「じゃあ僕はもう帰ろうかな。このままじゃ光くん泣いちゃうかもしれないもんね。じゃあねっ」
「おいっ」
ピョンっと効果音が付きそうなくらいに軽やかに私の膝から飛び退き、そのまま幸介は帰って行った。
光様が私をとられて悲しむなどと……変な期待をさせてくれる。圭吾様の膝の上であんなに楽しそうになさっているのに。
……いや、やはり少し変だ。お2人とも少し表情がぎこちない。なんだ……?
少し変な空気になってしまった中で、ジュースを飲み終えた悠仁がぬぼーっと立ち上がった。
「銀さん……おかわりある……?」
「おぉ、あるぜ! 今度は自分でいれてきな」
「うん……光くん、は? おかわり……」
「ありがとう! でもぼくはいいよ〜。おなかいたくなっちゃうかもしれないから」
「そか……我慢、えらいね」
「うちの光はいい子だからな。悠仁も見習え。絶対おまえ血糖値高いぞ」
「糖尿になっても……いい……」
そう言い残し、給湯室へと消えた。
いや、それはどうだろうか。糖尿は。控える気が全くないな。きっと今頃、給湯室のお菓子を漁っていることだろう。
「そうだ! ぼく携帯かってもらったの〜。おにいちゃんにもメール送れるようにして?」
「よし。わかった! いっぱいメールしてくれよ〜。父さんに買ってもらったなら俺のアドレスくらい登録してあってもいいものだが……あぁ、やっぱり登録してある。光、使い方が分からないのかな?」
「うん、わかんないの」
「じゃあ教えてやろうな〜。使い方を覚えてお姉ちゃんにもメールしてあげるといい」
「うんっ!」
あぁ、笑ってる。今はちゃんと。
よかった……。
「あぁ、そうだ」
私はこの日の朝に賢二の頭を撫でると思っていたこと思い出し、そのまま何も言わずに撫でた。
「え、なに?」
困惑した表情の賢二。
「……まぁ、いつも頑張ってるご褒美みたいなものだ」
「そか」
それを聞いて嬉しそうに撫でられる弟は、大人びた普段と違って年相応に見えた。
「しっかり光様をお守りするんだぞ?」
「うん。分かってるよ」
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