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学食に私、幸介、銀次の3人が入った途端、歓声とも悲鳴とも取れる声が響いた。食堂が込む時間帯ではないというのにこの騒ぎ。普段食堂を使わない我々が来れば毎度のことだが、不愉快な表情を抑えられない。
一方、幸介は声のする方に手を振るサービスぶり。尊敬の念すら覚える。
私は足早に食堂に設けられた中二階の特別フロアに上がった。一般の生徒が上がることは禁止されている生徒会役員専用席と言えば聞こえはいいが、要は見世物席だ。
その特別フロアの光景を見て、私は絶句した。
「なんだこれは……」
テーブルに並べられたデザート、デザート、デザートの山。
「まだまだくるぞ。悠仁がデザートを全種類注文した」
「全種類……ですか」
確かに5万円分というのは丁度、食堂のデザートメニューを全種類頼める金額だ。だからこそ5万円に設定した。とはいえ普通は一度に全部使うだろうか。30種類あるというのに。
「すごーい! ひーちゃん全部食べられるの?さっきケーキ食べたばっかりなのに?」
「甘いものは……別腹……」
よく使われる言葉だが、甘いものはたくさん食べられる、という意味ではないぞ。
「ならこれも食えるよな! 悠仁、俺からのプレゼントだ。受け取れ!」
「うわぁ……アイスだ……。いっぱい……ありがと銀さん……」
「まだ食うか! こっちの食欲が失せる!」
「その通りですね……」
「さてと俺もメシ注文するかな! 圭吾はもう頼んだのか?」
「あぁ。一応な」
食堂はテーブルに付けられているタッチパネルでオーダーし、タッチパネル横のカードリーダーにカードを通して精算するシステムになっている。
カードは基本的に寮の部屋のカードキーがクレジットの機能も備えているためそれを使うが、今回悠仁が使ったもののように食堂で使うためだけに金額を設定したカードもある。寮のない幼稚舎や初等部はこれを使う。オーダーを済ませるとウエイターが配膳してくれるようになっている。
「大変お待たせ致しました。本日の日替わりランチでございます」
そう言ってウエイターが置いた、圭吾様の前のランチセットを見て銀次が言う。
「今日のけっこういいじゃん! 俺も日替わりにすっか」
「僕もっ」
「では私もそれにしよう」
「お前らの分、ついでにオーダーしてやるよ」
「ありがと、気が利くじゃーんっ!」
「すまないな」
そうして悠仁のデザートに囲まれながら、全員日替わりランチを食べた。
悠仁の前に座っていた圭吾様とその隣に座っていた私が、ランチセットを食べ切れず残したのは言うまでもない。
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