08
入学式が終わり、私達は一緒に生徒会室へと戻った。
コの字型に配置されたソファに全員で座り、明日に控えた始業式の最終打ち合わせ前の休憩をとる。
「あー終わった終わった。今日もすごかったなぁ、圭吾のファン」
「新入生150人の中に圭ちゃんの親衛隊が何人いることやらっ」
「32人、だ」
「えー! 圭ちゃんってば把握してるのぉ?」
「まぁな。佐伯から情報をもらってる」
「佐伯っていうと、圭吾の親衛隊隊長の?」
「あぁ。規約をしっかり守らない奴がでないよう俺も隊員を把握している。面倒事を起こされて困るのは俺だからな」
「すっごーい! 僕なんか問題起こされても知ーらないって感じだよ?」
「まぁ、圭吾様の親衛隊は他とは規模が違うから。しっかり統治しないとおかしな事をする人間もでてくる」
「制裁とか……ヒドイ目に遭う子も……いるしね……」
「制裁で退学までしちゃう子もいるもんなぁ。なんでそこまでするんだか」
その通りだ。親衛隊に入っても恋人になれるという訳ではない。お互いに牽制し合って抜け駆けさせないことが目的の団体だ。親衛隊に入らずに近付く者には制裁を加え、徹底的に排除する。入隊するメリットといえば、月に一度行う親衛隊の集会で本人と会話できることくらいだろう。
それを作られた側は迷惑以外の何ものでもない。
「宗、なにを難しい顔をしている。そろそろ例のものを出せ」
「はい、すぐに」
今日、役員を生徒会室に集めたのは始業式の準備のためだけではない。
私は立ち上がり、生徒会室の奥にある給湯室に向かった。冷蔵庫から白い箱を取り出して、ソファの中心にあるテーブルへ運ぶ。
「お持ちしました、圭吾様」
圭吾様はその箱を開き、中身を取り出した。
「誕生日おめでとう、悠仁。俺からのケーキだ」
「うわ……ありがと圭吾……食べていい……?」
目を輝かせて、圭吾様に許しを請う悠仁。許しがでると、勢いよくまるごとフォークで食べ始めた。根っからの甘党なのだ。
ここに、明日から生徒会に入るあの子がいれば、よだれを垂らして見ていたかもしれない。圭吾様がこの大きなホールケーキを用意したのもあの子の助言があってのことだ。
そして、ここに集まって明日の打ち合わせをするのも、あの子のことがあるからだ。
「私からは食堂の5万円分のカード。これでデザートをたらふく食べなさい」
「宗も甘いのくれるの……? ……うれしい……」
口の周りに大量の生クリームをつけて受け取る悠仁。まるで小さな子供だ。
「僕からはね、これっ! ひーちゃん苺飴好きでしょ?」
「こんなにいっぱい……幸介ありがと……」
幸介から1リットル程の水が入りそうな瓶いっぱい入った苺飴を受け取る。ピンクの大きな飴玉がとても綺麗である。
「えーっと、俺はー……俺は、今から買ってくる!」
走って出て行く銀次。誕生日は覚えていたのにプレゼントを用意してなかったのか。あいつらしいと言えば、らしい。
「いんああお……ああいをうえるのああ……?(※銀さんも甘いのくれるのかな)」
8号のホールケーキを食べ終えて、苺飴を口いっぱいに頬張りながら言った。
「こら! 口に物を入れたまま喋るんじゃない」
いつもこうして注意をしてしまう。そして、いつの間にやら悠仁の世話係のようになってしまった私がいる。……圭吾様だけで手一杯だというのに。
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