02
俺は、大学にまた入り直し、医者になった。病気を治したいなんて思いからじゃない。単純に、なんとなくだけど、親孝行がしてみたくなっただけだ。
父親の病院で勤めている。形成外科の若先生。なかなか似合ってる気がしてきたことに笑える。
でも、あれから8年。いや、聡を待つようになってから15年。俺はずっと、あの部屋で暮らしている。
8畳の1K。一人暮らしには十分と言えるが、男2人でなど到底住めない。いや、住みたくないと思っていた部屋で、俺はずっと待っている。
あの手紙は何かの間違いで、サトシはまだ生きていて、俺が部屋のドアを開けると、みそ汁のいい匂いがする。後ろ手でカギをかけた音に反応したサトシがエプロンを付けた姿で現れて、こう言うんだ。
『隆さん、おかえり』
そんな日を夢見ながら、俺はあの部屋から離れられずにいる。
end.
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