1(完)
「このまま二人で抜けない?」
隣に座っていた女がそう誘ってきた。いつものことだ。合コンなんかに来てんだし、以前は気が乗ればその誘いに乗ってたんだけど。
「悪いけど、そういう気は無いんだ」
「えー、さっき彼女いないって言ってたじゃん。いいでしょ?」
確かに『彼女は』いないって言った。でも付き合ってくれてる子はいる。
「特別な子がいるから。裏切るようなことしたくないし、できない」
「特別って? 片想いってこと? コウ君みたいな人が? あり得ない」
「俺はまじでベタ惚れしてるから、他の誘いは乗らないよ。男欲しいんだったら、他当たって」
ほんとに俺はその子しかいらないから。その子以外は、全員どうでもいいから。
「何それー。どんな子?」
「優しい子」
「ありきたり過ぎだし。どうせ嘘なんでしょー」
「可愛い子。笑顔なんか可愛過ぎてどうにかなりそう。俺が何しても何言っても受け入れてくれて、いつも笑っててくれる子。俺のことすげー分かってくれてるし、尊重してくれる。どこで何してたって愛おしくて、すぐ会いたくなる。その子の甘い匂い嗅ぐと安らぐ。ずっと抱き締めてたいくらい。……ねえ、もっと延々言い続けられるけど、聞きたい?」
「バカらしくなってきた。他の席行こっと」
立ち上がってどこかへ行った女なんか目に入らない。だって目の前に、すごく可愛い顔した子がいるから。
「真っ赤な顔してどうしたの? もう酔った?」
「竹下さんが……」
「俺がどうかした?」
「何でもないっす!」
聞こえてたんでしょ? 俺の声が。だって目が合ってたもんね。どんどん赤くなって、目が泳いで、それでもチラチラ俺の目を見て……喜んでるのを隠せてないのが、ほんとに可愛い。
「二次会、行くの?」
「……帰りたいっす」
「帰って、何すんの?」
「なんか……いじわるっすね」
こんなの意地悪じゃないよ。ただの愛情表現だよ。
「俺も早く帰りたい」
帰って、抱き締めたい。抱き合ったまま、さっきの話の続きを聞いてよ。
それで照れた顔にキスさせて。
end.
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