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「竹下さんって以前は女性とセッ……い行為をしてたじゃないっすか」
『セックス』って言えなくて途中で『性行為』に切り替えるとかもう初々し過ぎてどうかと思う。竹下もこれじゃ手を出すのを躊躇ったって仕方ない。
「今は、俺と付き合ってくださってますけど、そういう嗜好っていうか、そういうのは変わらないと思うんすよ」
「そうだな」
「てことは、もしもそういう、行為をするとなったら、俺がそうなる側なわけじゃないっすか」
「そうだろうな」
「で、俺、そういう道具を買ったんすよ」
「…………」
モヤっとした表現ばかりの言葉が指し示す『道具』がはっきりと頭に浮かぶ。それがユキからあまりにかけ離れていて、衝撃の大きさに言葉が出てこなかった。
「その……ローションとか、ディ……」
「言わなくていい! 分かってる。分かったからこそのノーリアクションだったんだ、すまん」
「あ、そうだったんすか」
「で? 使ったのか?」
なんとも言えない空気が流れた。言いたくなければ言わなきゃいいし、俺はあえて黙っていた。これは竹下のために振った話だったはずだが、俺も言ってみればユキと同じ側な訳で、それなりに興味のある話でもある。
「……それが、全然で……」
不甲斐ないとでも言いたそうな表情だ。まあ、そうだろう。これで『もう慣れたっすよ。いつでもバッチコイっす』とでも言われたら俺は今この会話の記憶を無くしてしまいたい。
「自分でこう……やってると、こういうこと竹下さんは女性にしてきたのかなーとか考えちゃって。でも俺は男だし、そもそもこんなことしたくないかも、とか。でも万が一ってこともあるし、そうなった時に竹下さんの負担っつーか、やる気を削ぐようなことになったら嫌だし……って色々思ってたら、なんかぐるぐるしてきて、もういいやってなっちゃったんっす」
「お前って童貞?」
「そうっす」
「一人でする時はどうしてんの?」
「たぶんあんましない方だと思うんすけど、俺の場合は……」
その答えを聞いて、俺はユキに何も心配することはないと伝えた。いつか竹下とやる時が来ても、身を任せておけばいいから、余計なことは考えずに幸せだけ噛み締めておけと伝えると、経験者の三木さんがそう言うならそれでいいんすよね、とホッとしたように笑った。
『経験者の』は余計だけど。
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