3




「竹下さんって以前は女性とセッ……い行為をしてたじゃないっすか」


 『セックス』って言えなくて途中で『性行為』に切り替えるとかもう初々し過ぎてどうかと思う。竹下もこれじゃ手を出すのを躊躇ったって仕方ない。


「今は、俺と付き合ってくださってますけど、そういう嗜好っていうか、そういうのは変わらないと思うんすよ」

「そうだな」

「てことは、もしもそういう、行為をするとなったら、俺がそうなる側なわけじゃないっすか」

「そうだろうな」

「で、俺、そういう道具を買ったんすよ」

「…………」


 モヤっとした表現ばかりの言葉が指し示す『道具』がはっきりと頭に浮かぶ。それがユキからあまりにかけ離れていて、衝撃の大きさに言葉が出てこなかった。


「その……ローションとか、ディ……」

「言わなくていい! 分かってる。分かったからこそのノーリアクションだったんだ、すまん」

「あ、そうだったんすか」

「で? 使ったのか?」


 なんとも言えない空気が流れた。言いたくなければ言わなきゃいいし、俺はあえて黙っていた。これは竹下のために振った話だったはずだが、俺も言ってみればユキと同じ側な訳で、それなりに興味のある話でもある。


「……それが、全然で……」


 不甲斐ないとでも言いたそうな表情だ。まあ、そうだろう。これで『もう慣れたっすよ。いつでもバッチコイっす』とでも言われたら俺は今この会話の記憶を無くしてしまいたい。


「自分でこう……やってると、こういうこと竹下さんは女性にしてきたのかなーとか考えちゃって。でも俺は男だし、そもそもこんなことしたくないかも、とか。でも万が一ってこともあるし、そうなった時に竹下さんの負担っつーか、やる気を削ぐようなことになったら嫌だし……って色々思ってたら、なんかぐるぐるしてきて、もういいやってなっちゃったんっす」

「お前って童貞?」

「そうっす」

「一人でする時はどうしてんの?」

「たぶんあんましない方だと思うんすけど、俺の場合は……」


 その答えを聞いて、俺はユキに何も心配することはないと伝えた。いつか竹下とやる時が来ても、身を任せておけばいいから、余計なことは考えずに幸せだけ噛み締めておけと伝えると、経験者の三木さんがそう言うならそれでいいんすよね、とホッとしたように笑った。
 『経験者の』は余計だけど。


- 12 -



[*前] | [次#]
[戻る]


×
人気急上昇中のBL小説
BL小説 BLove
- ナノ -