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「三木さん。すみません、ちょっと相談したいことがあるんですけど……」


 申し訳なさそうに声を掛けてきたのは、サークルの後輩である竹下で。何にも興味が無さそうなすました表情以外の顔を、最近はよく見るような気がする。
 まぁでも夏休みに入る直前に偶然出会って、ユキに惚れてるって言われてなきゃ、その変化にも気付いてなかったかもしれないけど。


「どうした?」

「ここじゃちょっと……。どこか行きませんか? 奢りますから」

「どっか行くのはいいけど、奢る必要はねーよ」

「口止め料ってことで」


 竹下が俺に相談したいことなんて、十中八九ユキのことだ。というか、こいつがユキ以外のことで悩むなんて考えにくい。
 誰が見たって美形だと認める整った顔に、妬ましいほど高い身長と、鍛えすぎでも痩せすぎでもない肉体。女に好かれる要素しかない外見のくせに、女にはまるっきり興味が無い感じが有り有りと分かって、そこがまたモテる要素だったりする。
 加えて、誰かと衝突することのない良く言えば控えめ、悪く言えば他人との間に壁を作っている性格。課題も卒なく熟すし、金に困ってる様子もない。
 正直、こいつほど完璧に近い人間を見たことがない。


「で? どっかとは言ったけど、何でカラオケ?」

「誰にも聞かれたくない内容なので」

「……ユキと何かあった? ケンカでもしたか?」


 絶対無いだろうけど。
 ユキは竹下にベタ惚れだ。それは竹下も同じことなんだけど、年季が違う。何つーか、竹下が是と言うなら、是。非と言うなら、非。を地で行っている。
 ユキも、竹下に負けず劣らずの完璧男なんだからもっと自信持てばいいのにな。系統は違うんだけど、竹下が他人から抱かれる感情が羨望だとすれば、ユキは信頼って感じか。いい奴過ぎんだよ。良い意味でも悪い意味でも。


「ケンカなんか、させてくれませんよ。雪田の言葉は、どこまでが本音なのか分かりませんから」

「相談ってそれ?」

「あ、いや……その、キスの先、の行為についてなんですけど」

「は?」

「ですから……セックス、です。小野さんとは、してますよね」


 そりゃ確かにしてるけど。それを俺に聞いてどうすんだ? え、つーか、何だ。何が聞きたいんだ?


「何が聞きたいのかはっきり言えよ」

「雪田は、俺がしたいって言ったら、拒否しないと思うんですよ。どんなことでもそうなんです。俺がしたい、して欲しいって言えば、何だって『喜んでするっす!』みたいに言うんです。キスだって、雪田から自発的にはしてくれたことないし、だから……どうしたらお互い納得してセックスできんだろうって思って」

「つまりユキから求めて欲しいっつーこと?」

「……そう、なんですかね。何て言うか、俺と雪田の気持ちって違うんじゃねーかなって。雪田の気持ちはただの憧れとか、そんななんじゃねーかなって不安になるんです。でも、それを確かめて『そうだ』って言われたら立ち直れる気がしないんですよ」


 意外。真っ先に浮かんだのはその二文字。
 あんだけ想われてて、そんな消極的なこと考えんだ。俺に言わせれば、ユキなんか竹下が好き過ぎて、付き合えてるってことが嬉し過ぎて、それでピーク迎えてるだけなんじゃねーのって話なんだけど。竹下からキスされて、もうそれで大満足! 幸せ! 奇跡! くらい思っちゃって、自分からしてねーとか、竹下がそれで不安になってるとか気付いてないだけだと思うんだけどな。


「で、俺と小野さんがどういう流れでヤッたのか聞いてみようって?」

「……はい」

「夏に俺の実家泊まったろ。その時から俺らが付き合って、その日にしたって、小野さんから聞いてんじゃねーの?」

「え」

「あれ。小野さん言ってねーの? てっきり話したんだと思ってた。話すなって言ったら話さないような人だったんだ」

「付き合うことになったとは聞きましたけど、その時にとは……ああ、だから次の日は体調不良で遊びに行けなかったんですか。俺は二人きりになる口実だとばかり思ってました」


 そんな甘ったるい理由だと思われてたのか。俺は単純に身体が怠くてっつーか、普段使わねー筋肉使って筋肉痛がやばかっただけで。正直小野さんがうざすぎて、遊びに行って欲しかったくらいだし。


「まあ、そういう訳だから、流れもクソもねーよ。お互いの気持ち言って、盛り上がってそのまま雪崩れ込んだだけ」

「盛り上がって、か……」


 ないなー。とか考えてんのかな。
 そういや付き合うことになってからもユキの様子って変わんねーもんな。竹下と二人きりでいても、ずっとあんな調子なのか?


「お前ら二人でいる時はどんな感じなんだ?」

「んー……。俺は結構、触りたい方なんで何かとくっついてはいますけど。雪田はいつも通りって感じですかね」


 これあれかな。ユキは内心テンパってるけど、竹下は気付いてないってことか? お互いがお互いの気持ちに鈍感になってるってやつ?
 まあ、お互いに片思いしてたくらいだもんな。


「俺からそれとなく竹下とのことどう思ってるか聞いてやろうか?」

「え……」


 読みにくい表情してるけど、これは期待半分、迷い半分って感じか?


「大丈夫だよ。自信持てって。ユキの気持ちちゃんと知りたいんだろ?」

「それは、知りたい、ですけど」

「任せとけって。俺なら逆に話しやすいってこともあるだろうしさ」


 しばらく考え込むような素振りを見せたと思ったら、『じゃあ、お願いします』と少しだけ不安そうに言った。


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