20-1




 方向が違う小野さんと三木さんと別れて、ホームで電車を待つ。
 目を閉じて、右手に意識を集中させる。竹下さんの手の感覚を忘れないように、刻み込むことが出来たらいいのに。
 手に全身の神経が集中するなんて、そんなことはなくて。というか、全身の神経を総動員したかった。温度とか、柔らかさとか、手の大きさや、指の太さ、握る強さ……そういうの全部、俺の持つ全てをかけて感じていたかった。

 どうせこのあとバイトだし、手は何度も消毒することになる。せめて今日だけは、手を洗わずに眠りたかったなんて思ってることを知ったら、竹下さんは気持ち悪いって思うかな。
 何で俺と手を繋いだんですか? そう聞きたくても聞けなくて、かといって何でもない振りも出来なくて、俺はずっと変な態度をとっていたと思う。俺にとっては夢のような時間だった。だから、あえてそれを自分から壊すなんてことできなかった。
 竹下さんが何かの気まぐれで手を繋いでくれたんだとして、理由を聞いたりとか、嫌だったとか嬉しかったとか、そういうの全く言わなかったら……また、繋いでくれたりしないだろうか。

 だめだな、俺。どんどん欲張りになってく。

 最初は、竹下さんを遠くから見てるだけでも幸せだった。たまに笑っている顔を見られたりすると、別に俺が笑わせた訳でもないのに、一日中特別に幸せな気分になれた。
 たまたま同じ時間の電車に乗れたとか、昼の購買で近くに並ぶのに成功したとか、竹下さんのクラスが体育をグラウンドでやってたからずっと眺めていられたとか、話し声が聞こえたとか、そんな些細なことでニヤニヤしてしまうのを止められなかった。

 なのに、今は……竹下さんが誰かと話しているのを見るだけで、嫉妬に近い感情を抱いてしまう。
 俺の隣にずっといて欲しい。俺ともっと話して欲しい。二人だけで過ごしたい。出来るなら、触れたい。そんなことを願ってしまう。

 こんな馬鹿なこと考えてるって、竹下さんに知られたくない。変な欲がなかった自分に戻りたい。ただただ好きでいるだけで満足してた頃の俺に。
 いつからこんな風になったんだろう。大学で、同じサークルに入ってから? 俺の部屋に来てくれて、話せるようになった日から? 竹下さんに、好きな人が出来たと知った日から?

 ……分からない。けど、俺の気持ちが高校生の頃とは違うってことだけは、はっきりと分かる。


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