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「お疲れー。またなー、竹下ー」


 駅の改札を通って、小野さんが俺に手を振った。三木さんは表情だけで別れる感じを出している。雪田は……何となく気まずそうな顔してる。
 ああ、そういう顔も好きだな。なんて思う俺の頭ってどうなってんのかな。

 電車に乗って帰っていく3人とは違って、俺の家からこの駅が最寄りだ。本当のことを言うと、もう少し雪田と一緒にいられたらいいのになんて思ってるけど、今度は2人っきりで会う約束をしてるんだから今日は我慢しよう。結局、手を繋いだことについて話すことはできないままだったけれど。

 雪田はどう思ったのかな。手を繋ぎ返してくれるくらいだから、嫌ではなかったのかな。いや、でも男に手を繋がれて嫌じゃない訳ないよな。俺の方が先輩だから、拒否しなかっただけなのかな。さっきも何か気まずそうだったし、たぶんそうなんだろうな。
 雪田の表情一つ、言葉一つ、些細な行動だけで、俺は一喜一憂する。落ち込むことは多い。でも、これまで感じたことのないような幸せな気持ちにもなれるのだから、好きって気持ちはすげーんだなって思う。

 もっと早く出会いたかった。
 どうせ俺はいつ雪田と出会っていたとしても、すぐに好きになっていただろうし。雪田のそばにいられたら、もっと違う俺になれてた気がする。
 あの女のことも、ただの嫌悪以外の感情を持てたかもしれない。そしたら、家に帰ることをあそこまで嫌がらなかっただろうし、ヒモみたいなこともしなかったかも。家に帰りたくないし、かと言って仲のいい友達もいなくて、泊まれるとこ探して、適当な女の相手して、必要だと思えばヤッて、その代わりに金貰って、物を買わせて、最低だった。

 今、純粋で汚れのない雪田の隣にいると思い知らされる。あー俺って汚ねぇなって。
 やり直せたらいいのに。というか、中学生だった頃の俺に教えてやりたい。
 大学生になったらすげーいい子に出会えるよって。ほんとにいい子だから、俺もそれまで自分磨いとけよって。

 そしたらもっと、俺の人生はいいもんだったろうな。


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