19-2




 雪田の手に力が加わって、今明確に俺の手を握り返してくれていると確信できる。なぜ? なんで手を繋いでも文句一つ言わずに、その上握り返してくれるのだろう?
 雪田が今どんな表情をしているのかすげー気になるけれど、俺はあえて雪田の方を見なかった。もし目が合いでもしたら、俺はきっとまた何でもないような顔をして笑って、この手を離してしまうだろう。そんなもったいないことはしたくない。

 そんなことになるなら、このまま素知らぬ顔をして手を握り続けていたい。せめて映画が終わるまで。せっかく雪田に触れられたんだから。
 手を離したあとどんな言い訳をするかは、あとで考えよう。映画が終わったあとで。


「まじでうざいってああいうの。隣で何回もチュッチュ、チュッチュしやがって。迷惑行為だな。迷惑行為」


 小野さんがいつになく真剣な面持ちで話しているが、内容はいつも通りの下らないことだった。


「キスすんのは百歩譲って許してやっても、あの音だけは許せねーな。何でわざわざ音立ててんのって話だよ。なぁ? ユキ」

「お、俺っすか。確かに、隣でイチャつかれたら嫌な気分になるっすね」

「だろー! だから俺言ってやったんだよ。うるせーから外でやれって」

「外でやったらそれはそれで迷惑行為ですけどね」


 三木さんの冷静な言葉に雪田が笑っている。今、口にポテトを運んでいるその手が、ついさっきまで俺の手の中にあったことを思い出して、何とも言えない気持ちになった。

 映画のエンディングが流れている間、どうしようかと頭を悩ませた。結局、映画が終わるまで雪田と手を繋ぎ続けることはできたけれど。さて何て言い訳をしようか。それだけを考えていた。
 その内にエンディングが終わって、照明が明るくなり始めて、とにかく手を離さなきゃいけないと思ったときだった。


「おーい、竹下、ユキ! メシ食いに行こうぜー!」


 という小野さんの大きな声が響いた。
 それと同時に雪田は立ち上がり、『はい! 了解っす!』と言って、スルリと俺の手から逃れてしまって。それでそのまま、何となくうやむやになった。
 助かったような……残念なような。複雑な気分だ。


- 74 -



[*前] | [次#]
[戻る]


×
「#エロ」のBL小説を読む
BL小説 BLove
- ナノ -