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雪田の手の甲から、ほんの少しだけ俺の体温より高い温もりが伝わってくる。逆に言えば、雪田は俺の手が冷たいと感じているのだろう。お互いの温度を感じていると考えるだけで、口の端が上がった。
映画は少女漫画を題材にしただけあって、おそらくは俺よりも年上であろう男女が似合わない制服を着ている。あまりテレビを見ることもない俺が顔を知っているくらいだから、その男女とも人気のある俳優なんだろうが、演技はお世辞にも上手いとは言えない。正直言って、つまらない。
大体、スクリーンに映る高校の中で『格好良い』ともてはやされている男より、雪田の方が整った顔をしているし、その男が『可愛い』と言う女の可愛さが分からない。
そんなことより、熱心にスクリーンを見つめる雪田の顔から目を逸らすのが惜しいと思ってしまうくらいには、雪田の方が可愛らしかった。
映画が始まる前に宣言した通り、眠った振りをして雪田の肩に頭を預けてしまうおうかと、俺が考え始めた辺りで不意に雪田がこちらを向いた。
映画も見ずに雪田を眺めていたから、当然バチっと目が合ってしまった。けれど、別に何でもないように、たまたま目が合ったのだとでもいうように、軽く微笑んでスクリーンに視線を移した。
そこに映っていたのは、なかなかに濃厚なキスシーンだった。嫌がる女を壁に押さえ付けて、男が強引にキスをしたようだ。
自然と、脳内でそれを俺と雪田に置き換える自分がいた。壁際に追い込まれて動揺している瞳。『竹下さん』と慌てた様子で漏らす声色。握った手はおそらく温かくて、唇を強引に合わせられると上手く呼吸も出来ずに息を荒げるだろう。
そんな想像に思考を飲まれた俺の手が、無意識に動いて、雪田の指に指を絡めた。最初は人差し指だけだった絡まりが、抵抗されないのをいいことに中指、薬指、小指と深めていく。完全に手を繋いだ形になった時に初めて、他人事のように感じていたその行為は、俺自身がしでかしてしまったことだと自覚した。
……さて、どうする?
強引なキスをされた女が泣きながら走り去って行く映像を眺めながら、内心かなり焦っていた。
今パッと手を離しても、このまま握っていても、どちらにせよ手を繋いだという事実に変わりはない。でも今すぐ離して、冗談っぽく笑顔さえ見せられれば、何とか誤魔化せるかもしれない。そんなことを考えていると、されるがままになっていた雪田の指がピクンと動いた。
そして、そっと力が加わり、俺の手の甲に雪田の指先が触れた。
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