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 元々薄暗かった空間がさらに暗くなる。スクリーン以外の光源はない。いよいよ映画が始まるというこの瞬間の高揚感が俺は好きだった。今は違う意味でも高揚している訳だけど。
 そんなドキドキの俺の耳元で、竹下さんが囁いた。突然のことに声を上げなかった自分を褒めてやりたい。


「やっぱりれおも肘置き半分使いな」


 そう言って竹下さんが俺の手首を軽く握って肘置きの方へと促した。俺は抵抗をしなかった。だって竹下さんが手を引いてくれたから。それが嬉しかったから。
 だから、腕や手の甲同士が触れ合ってから事の重大さに気付いてしまった。

 ……ゼロ距離!

 映画どころじゃないと心臓が訴えている。ずっと想い続けて、でも話すことも出来ずに、ただ遠くから眺めることしか出来なかった竹下さんと、並んで映画を観るなんて。しかも、手を触れ合わせて。
 繋いでる訳じゃない。肘置きを一緒に使うという成り行き上、触れ合っているだけだ。それでも、もう竹下さんは遠い人じゃないんだ。俺は、竹下さんに触れられるほど、そばにいることが出来ているんだ。

 そう思ったら、少しだけスクリーンが滲んだ。


「始まるね」

「あ、はい。そうっすね」

「もし寝ちゃったら、ごめんね」

「竹下さんが寝ちゃってたら起こしましょうか?」


 コソコソと声を潜めて話すと、何だか今ここに竹下さんと2人でいるという実感が増して、すごく胸が湧き立つ。


「起こすんじゃなくて、肩貸して欲しいな」

「はい。了解っす」


 それってつまりもっと触れ合うってことだよな。竹下さんが寝ちゃえばいいのに。俺の肩に頭を預けて寝てくれれば、大好きな竹下さんを間近でじっくり見られるのに。


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