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「雪田? どうかした?」

「え! あ、すいません! ぼーっとしてたっす」

「謝んなくていいけど……座敷でいい?」

「はい、俺は何でも」

「じゃあ、行こっか」


 行きたいお店があるって、好きな人がいる店とか……。すごいヘコむ。なんだこれ。俺めちゃくちゃ楽しみにして、吐くほど緊張したけど、それ以上に浮かれてたのに。
 竹下さんの好きな人に会っても、笑顔でいようって思ってたけど、無理だ。気を抜くとため息とか吐いちゃいそう。顔もしょぼくれてそうだ。


「元気ないね?」

「そんなことないっすよ」

「そういうの嘘って言うんだけどな。れおは俺に嘘つくのか。ひどいなー」

「え、あ。えっとそのー……俺、今日すげー楽しみにしてて。竹下さんと、2人でとか、まじで嬉しかったんす。だからなんかちょっと、女性と楽しそうに会話してる竹下さん見て寂しくなったっつーか……あ。何言ってんだ俺。すいませんっす」


 あーもう何で俺ってこうなんだろう。竹下さんが好きだなんて言ったって、結局は自分の願望とか感情とかが先に立っちゃう。
 竹下さんがあれくらいの年齢の女性と仲良く話してることは、いいことじゃないか。だって……いや。うん、あまり深く考えないでいよう。とにかくここは笑顔で! せっかく竹下さんと一緒にいるんだから。


「……えと、竹下さん?」

「あ、ごめん。れおが嬉しいこと言ってくれるから顔が緩んじゃってた」

「嬉しいことなんか俺言ってないっすよ。まじうざくてすいませんっす」

「うざくなんかないって。俺と2人でメシ来んの楽しみにしてくれてたんでしょ? 嬉しいよ? 俺だって楽しみにしてたし、誘ってくれて、嬉しかったしね」

「まじすか」

「大まじです。ほんと可愛いね、れおは」

「な……!」

「お話中申し訳ないんだけど、ウーロン茶持って来たよ。もちろんこれはサービスだから。ところで今からでもカメラ仕込んでいいかな? 最悪映像は想像するとして、録音だけでもさせてくんない? あとから聞いてハアハアしたいから!」

「なんだ。カメラ本当にないんですね。安心しました」

「え? え、何なんすか?」


 俺の声を遮って、さっき竹下さんと仲良さげに話してた女性がウーロン茶を2つ持って来てくれた。……それはいい。嬉しいんだけど。
 今すごい勢いでおかしなことをさも当たり前のことのように言わなかったか? しかも竹下さんも平然としてるし。カメラって? 録音って? ハアハアってなんだ!?


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