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「言いたいことは、よく分かった」

「ご理解いただけたようで安心しました」

「理解はした。でも、無理だ。この気持ちは消せない」


 笹川の言っていることは正しい。本当に雪田を想うなら、こんな感情は捨て去るべきだ。


「俺は男だから、奇跡でも起きない限りあり得ないことだけど、もし俺の想いが通じたとして。それが雪田を苦しめる結果になるってことは分かってる。でも、雪田を好きでいることくらい許されたっていいだろう? 恋人になれなくてもいい。一生伝えられなくてもいいよ。そりゃ確かに嫉妬はするだろうけど、雪田が誰かを想うことを積極的に邪魔するつもりはない。俺だって、雪田には幸せになって欲しいから」


 本当は、俺の気持ちを伝えたいし、俺を好きになって欲しいし、俺の恋人にだってなって欲しい。でもそれは、口にしちゃいけない。雪田を悩ませることになるのだから。


「……真剣な気持ちなんですか?」

「自分でも驚くくらいに」

「怜央を傷付けないと誓えますか?」

「俺が雪田に傷を付けられるほど影響力があるとは思えないけどね。傷付けるようなことはしない。優しくしてあげたいと思うよ」


 笹川が長い溜め息をついた。話は終わりだという合図のように思えた。


「竹下さんの印象が変わりました」

「良い方に?」

「そうですね。たぶん。何か意外とかっこ悪い人だったんだなと、改めました」

「そうだね。すっげーかっこ悪いよ。常にバタバタもがいてるみたいだ。雪田を好きになってから、自分でも自分が分からなくなる」

「それでも、スカしてるよりずっと良いですよ。……怜央のこと、よろしくお願いします。かなり抜けてるんで、見ててやって下さい」


 笹川が俺に頭を下げた。なんだなんだ。急に態度が変わりすぎだろう。
 聞き苦しいほど自分勝手な雪田への想いがかっこ悪くて、逆に笹川の信用を得たということなんだろうか。こんなに惚れてる奴ならまあ大丈夫だろ、ってことか?


「それは、俺を認めてくれたってこと?」

「まあ、怜央の先輩としてはですけど。さっきの誓い、必ず守って下さいね」


 次に頭を上げた時には、いつも通りの顔に戻っていて。やっぱりこいつは癪に障ると思った。


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