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「竹下さんは、ユキと仲が良いんですか? 2人で出掛けるほど?」


 笹川の言葉は挑発されているのかと思うようなものであったが、その表情は純粋に不思議に思っているように感じさせるものだった。素直に答えると『そんなに仲良くはない』と言うしかないただの先輩と後輩という間柄なので、少し曖昧に答えることにした。それは単に笹川に勝ったと思われたくないからなんだけど。


「そうだね。雪田はいい子だし、俺は好きだよ。欲を言えば、もっと仲良くなりたいんだけど」

「ま! すっ! ええ!? わあー!!」

「何が言いたいのお前」


 突然意味の分からないことを大きな声で発した雪田に、小野さんが冷静に突っ込んだ。
 雪田が奇声に近い何かを発したのは、俺の言葉が原因だ。この反応からして、雪田は迷惑には思ってないし、むしろ喜んでくれていると考えても良さそうだ。
 何より、笹川の不機嫌そうな顔がそれを表している。


「こんなこと言ったら失礼ですけど、竹下さんって女性が放っておかなそうですし、プライベートはお忙しいんじゃないですか?」

「ちょ! バカ! 何言ってんだよ!」

「雪田。いいよ、全然気にしてないから。まあ確かに、女は寄ってくるね。それを否定はしないけど、今の俺はそれを望んでるわけじゃないし、プライベートに女は関係ない」

「へー、『今の俺は』ですか。以前の竹下さんはどうだったんですかね?」

「一般的に言うと、最低な奴以外の何者でもなかった。でも今は、雪田に変えてもらったから。割とまともだよ?」

「へっ? 俺っすか?」

「うん。雪田を知って、考え方が変わった。雪田は俺に良い影響を与えてくれる。だから、雪田のご両親にこう伝えて? 大学の先輩に感謝されるくらいよくやってるって」


 その会話以降、全員が当たり障りのないことだけを話して食事を終え、解散した。
 そしてその後、小野さんと飲み直そうと別の居酒屋に行き、三木さんに関する惚気話を延々と聞いた。正直に言うと、それが聞きたかったので不満はないのだけれど、やっぱり男同士で交際に発展するには奇跡が必要なんだと実感した。だって、小野さんと三木さんは『好きだ』と伝える前から、お互い好きだったんだから。そんな奇跡が俺と雪田の間に起こるはずがない。


「それにしても、あの会話の応酬でユキがこれっぽっちも竹下の気持ちに感づかないとはなー。何か純粋に喜んでたよな。後輩としてさ。鈍感にもほどがあるっつーか……そういう感情を抱かれることを全く考えてもいないのか」

「それはそうでしょう。同性から恋愛感情を持たれてるんじゃないかなんて、普通は考えませんよ」


 そういうことだ。俺が雪田の恋愛対象になることなんて、ないんだ。


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