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俺は鈍感ではない。だから、他者が雪田に好意を持っているか持っていないかくらいは分かる。そして、雪田が幼馴染みだと言って紹介してくれた笹川という奴は、雪田に対して、幼馴染み以上の感情を持っていると即座に察した。……雪田は絶対に毛ほども気付いていないだろうけれど。
「怜……ユキ」
「ん? あぁ」
雪田が笹川の取り皿にある生春巻きから、青じそだけを取り除いて食べた。おそらく笹川は青じそが嫌いなのだろう。ただ名前を呼んだだけで意思の疎通ができるというのを見せ付けられたような気になる。
それに『ユキ』と呼ぶ前に『れ……』と言いかけたのもわざとじゃないのか? 普段は雪田を下の名前で呼んでるけど人前では雪田が嫌がるから訂正したんだと思わせて、親密さをアピールしてんじゃないかと勘ぐってしまうのは俺だけか? ……俺だけか。そもそも小野さんは雪田の下の名前が『れ』から始まることをたぶん知らないだろうし、この人が気にかけるのは三木さんのことだけだし。
気にしすぎなんだろうけど、笹川はとにかく癪に障る。
「竹下さん、唐揚げどうっすか? お好きっすよね?」
「え、あ。うん」
「……あ。普通に手届くっすよね! すいません、出しゃばりました」
「ううん、いただきます。ありがと。俺が唐揚げ好きだってよく知ってたね?」
「竹下さんが唐揚げ食べてるの結構見るんで、好きなんだろうなって思ってたんす」
「俺、肉結構好きなんだけど、その中でも鶏肉が断トツで好きなんだ。雪田は? 肉好き?」
「肉好きっす! 俺も鶏肉が一番っすね。あ、だからこないだバーガーショップでチキンバーガー頼んだ時に『それ2つ』って仰ったんすね。俺てっきり考えるのが面倒だったんだと思ってたっす」
「違うよ。最初からそれに決めてたの。まあ、手間が省けたとは思ったけどね」
「じゃあ、今度メシ行くの焼肉にしましょう! 俺、奢るっすから。ガッツリ食べて下さい」
「だから雪田に奢らせたりしないって。でも、焼肉は行こうね。また今度。2人で」
「約束っす!」
雪田は気付いているだろうか? 俺が雪田を誘う時、『2人で』と念押ししてること。気付いてないかな。
笹川がそれに引っかかっていればいい。俺だって雪田とはそれなりに仲が良いんだぞ。負けてはないぞ。というのが伝わっていれば、それで少し、気分は晴れる。
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