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今朝もまた小野さんは、三木さんのお母さんを褒めちぎり、三木さんに怒られていた。気に入られようという下心が見え見えなので小野さんには少し呆れるが、三木さんのお母さんが美人で料理上手だという点を否定はしない。
今日も海で遊んでから帰るということになった。体調があまり優れないと言う三木さんと、三木さんに付き添いたいと言う小野さんを置いて、5人で海に向かった。
女と遊びたいなら別行動をする。そう竹下さんが言った結果、霧島さん、モト、ニーナの3人と、竹下さんと俺の2人に分かれることになった。
何というラッキー! 海で竹下さんと2人で遊べるなんて!
そう思ったのもつかの間。さて、海で2人で何をしよう? と話している間に、女性から声を掛けられてしまった。やっぱり竹下さんはモテるなぁなんて感心しながら他人事のような顔をして女性の相手を竹下さんに丸投げしていたせいか、竹下さんの機嫌がみるみる内に悪くなっていくのに焦った。
海にいると邪魔が入るから、帰る時間までこの町をブラブラしてみないかという竹下さんの提案に、俺は即座に大賛成。
服に着替えたり、出掛ける準備をするために一度三木さんの家に戻ってから、海とは反対の方角へ歩き出した。
何があるという訳ではなかった。住宅街を抜けると商店街やJRの駅があって、少し大きめのデパートがあった。買い食いしたり、服を見たり、歩いて話したり。それだけのことだったけれど、俺は舞い上がっていた。遠い存在だった憧れの先輩と2人で、まるでデートのような時間を過ごせたから。
同じ大学に入って良かったと、心の底から思った。
そして、帰り道。昨日今日でたくさんの女性のアドレスをゲットしたと霧島さんがホクホクしていたり、モトとニーナが撃沈している車内で。
「今度2人でメシ食いに行かない? 前に朝メシのお礼するって言ったのもまだだったし」
と、竹下さんから誘われた。何が起こっているというのだ。俺の人生こんなに順調でいいのかと、逆に不安になりつつも。
「すみません。明日から幼馴染みが俺の部屋に泊まりに来るんすよ。それでしばらく体が空きそうにないっす」
「そうなんだ」
「竹下さんとお食事はまじで行きたいんすよ。ていうか、前に合コンで立て替えてもらった分お返ししなくちゃだし、是非俺に奢らせて欲しいんすけど。また今度、俺から誘ってもいいっすか?」
「うん。もちろん。でも、雪田に奢らせはしないけどね」
にっこりと笑いながら、竹下さんがそう言ってくれて。この旅行で竹下さんと親睦を深められたのでは! と思っていた俺の淡い期待は、ものの数秒で小野さんに打ち砕かれた。
「ユキがだめだったんならさー、俺とメシ行かねぇ? 竹下に話したいことあるんだよな」
「あ、俺も小野さんに聞きたいことがあるんですよ。是非。行きましょう」
なんでそんなにイキイキしてるんだよ。明らかに俺を誘った時より乗り気じゃん。普通にヘコむわ。
「……小野さん。もし余計なこと言ったら、縁を切りますから。分かってますよね?」
「お、おっす」
「竹下も。何のこと言ってんのか分かるよな? 絶対に聞くな。聞いたらお前の痛い発言を暴露するぞ」
「……肝に命じます」
何のことを言っているのか俺には全く分からなかったが、小野さんと竹下さんがアイコンタクトを交わすのを見て、この人達は三木さんの忠告を無視する気だということは分かった。
俺に分からないことを、竹下さんと共有する小野さんに嫉妬する自分が嫌だった。
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