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 雪田は縁側に座った状態で飲んでいたのだろう。力無く倒れた上半身は明らかにぐったりとしていた。


「こんなになるまで飲ませたの誰だよ」


 俺の声は自分で思うより怒りの色が含まれていた。そのせいか答える新見の声はひどく焦っている。


「なんかヤケになったみたいに飲んでて、俺らはやめとけって言ったんすけど、飲むっつって聞かなくて。で、ぐでんぐでんになってから何回も竹下さんを呼んでたんで、それで……」

「俺を?」


 新見と橋本を一瞥してから、雪田の側に寄る。目を瞑って、まるで眠っているような雪田に声をかけた。


「雪田? 大丈夫?」


 声をかけると雪田が目を開いた。焦点が合っていないような目でこちらを見たあと、情けない顔でヘニャっと笑った。


「……竹下さん。来てくれたんすか」

「俺を呼んでたんでしょ?」

「すみません」


 申し訳なさそうな顔をして謝る必要なんてない。だって俺はただ、嬉しいだけなんだから。


「いいよ。雪田立てる? 今晩はもう先に休もうか」

「竹下さんも一緒にっすか?」

「うん。俺ももう結構酔ってるし」


 そう言うと、雪田は嬉しそうにまたヘニャっと笑った。なんだこれ。すげー可愛い。何だよ。可愛いなんて、初めて思った。


「竹下、玄関のすぐ左の部屋に布団用意してあるからな。片付けは俺らでやっとくから早くユキ連れてってやれよ」


 いつの間にいたのか、すぐ側に立っていた三木さんがそう言ってくれた。そして、俺にだけ聞こえるような声で『頑張れよ』と言われたので、俺も『三木さんこそ』と返した。
 満足に立てない雪田を支えながら、三木さんに言われた部屋まで雪田を連れて行く。襖を開くと6人分の布団が敷かれていたので、とりあえず一番近い布団に雪田を寝かせた。


「気分悪い?」

「……悪いって言ったら、ずっと付いててくれますか?」


 人を試すような物言いに驚く。雪田は真っ直ぐな言葉を吐くというイメージが俺の中にはあったから、すぐに返事ができなかった。


「すみません、今の嫌な感じっすよね。ただ、竹下さんと一緒にいたいだけなんすよ。だから、こうやってわざと酒飲んで、心配させて、竹下さんの気を引こうとしてるんすよ、俺」


 ……今、何て言った? 俺の気を引きたいって言ったよな? 俺と一緒にいたいから、酒に酔って心配させようとしたって。
 事態が把握できなくて何も言えなかったことを怒っていると勘違いしたのか、雪田は沈黙に耐えられないとでもいうようにまた口を開いた。


「……俺うざいっすよね。ほんとに、すみません。竹下さん、お願いですから、嫌いになんないで下さい。竹下さん……竹下さん、俺、竹下さんが大好きなんです。だから、嫌いにならないで下さい」

「れお……それって」

「せっかく、やっと、竹下さんと話せる、ように……な……」

「…………れお? え。寝たの? 嘘だろ? 今、このタイミングで寝るとか……ねーわ」


 でも確かに言ってくれた。『大好き』だって言った。聞き間違いなんかじゃない。それでも、素直に喜べないのは、俺と同じ『好き』かが分からないから。


「嫌いになんて、なるわけないよ」


 どんなにモヤモヤした感情があったって、寝顔を見るだけで、つい笑ってしまうくらい雪田が好きなんだから。


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