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竹下さんはモテる。当然だ。綺麗に整った顔、高い背、少し低めの声、柔らかい口調……どれをとっても一級品で、なんでこんな人が普通に身近にいるんだろうなんて思ってしまうくらいに格好良い。
だから、竹下さんが女性に声を掛けられるのは当たり前で。というか、そのためにここに座ってたんだし。つまり、俺が不機嫌になるわけにいかなくて。ただなんかちょっと、せっかく隣に座ってたのに割り込まれて不愉快っていうか。あーでも、そういうの考えちゃだめだぞ俺。
「や、7人。つーか狭いからそこ座んないでほしいんだけど」
3人で来たのか、どこから来たのか、年はいくつか、彼女はいるのか。竹下さんへの質問攻撃が止まらない。その中の何人で来たのかという質問に対してだけ答えた竹下さんが、俺と竹下さんの間に割り込んできた女性に不快感を露わにした。
「えー、いいじゃんねぇ? ホラ! 隣の子は何とも思ってないよー」
「俺が立つっすよ。ついでになんか飲みもんでも買って来るっす」
こういう時に、嫌なことは嫌って言えない自分が嫌だ。自己主張できる女性と自分を比べてヘコむ。俺だって竹下さんと喋りたいのに。卑屈になって、すぐに逃げてしまう。
「あ、待って待って。私も一緒に行ってもいいかな?」
笑顔でついて来てくれると言う女性が1人現れた。断る理由もないので一緒に行くことにする。小柄で丸顔の女性。きっとモトの好みのタイプだ。戻って来たら喜ぶかもしれない。
「急に騒がしくなっちゃって、嫌だった?」
「そんなことないっすよ。喉乾いたなって思ってたから、ちょうど良かったっす。そっちは何人で来てるんすか?」
「私達は4人だよ。……あ、名前聞いてもいい?」
「雪田っす」
「雪田くん達は、7人なんだっけ?」
「そうっす。まあでもとりあえず、今いる7人分だけ買って戻りましょうか。あとで人数増える分はそん時また買いにいくってことで」
何人ナンパして戻って来るか分からないし。
霧島さんのことだから、それなりの人数を連れて来るだろう。そうなったら、やっぱり竹下さんとは別行動になっちゃうのかな。
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