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「竹下さん?」


 海へ行く当日の朝、霧島さん家の最寄り駅に竹下さんの姿があった。俺と目が合った瞬間、竹下さんの表情がパッと明るくなって、あーもう何でそんなかっこいいんだよって口に出しそうになった。


「あー、よかったー。れおが1人で来てくれて。あのさ、じゅんぺーん家の場所うろ覚えで……一緒に行ってもいい?」

「もちろんすよ! 行きましょう」

「橋本とか新見と一緒だったら声掛け辛いなって思っててさ。そうなったら最終じゅんぺーに迎えに来てもらおうかとか考えてた」


 俺は『そうなんすかー』と言いながら、竹下さんの口から出た『橋本とか新見』という同期の奴らの名前に引っかかりを感じた。
 サークルの1回生の中で竹下さんと一番親しいのは俺だ。自信を持って言える。だけど、大した差はなかったんだ。
 ついこの間まで竹下さんと喋ったことなんてほとんどなかった。それはモトとニーナも同じ。だから、竹下さんが俺の名前を覚えててくれたことがすごく嬉しかった。挨拶くらいしかまともにしたことのない俺でも、竹下さんの視界に少しは入ってたんだって思えた。

 俺は特別だと、いつの間にか勘違いをしていたんだ。他の後輩とは違うんだって、思ってた。
 でも、一緒なんだ。モトやニーナだって、竹下さんとたくさん話すようになれば、俺と同じかもしくは俺よりも仲良くなっちゃうかもしれないんだ。


「れお? どうかした?」

「何もないっすよ! それより、楽しみっすね。海!」

「だね。れおの水着姿も見れるしねー」

「ははっ! 何っすかそれ。どんな期待されてんのか分かんないっすけど、めちゃくちゃ普通っすよ、俺の水着」

「俺が期待してんのはもっと別のことだよ」


 ちょっと待てよ……ということは、俺も竹下さんの水着姿が拝めるということじゃねーか。竹下さんの水着姿。つまり、ほぼ……。
 大丈夫か、俺。平常心でいられんのか? また手で影絵とか作ったりしねーかな。


「……聞いてる?」

「え! あ、すいません! 何でした?」

「何だよもー。俺けっこう勇気出して言ったんだけど」

「えっ、すいません。もう一回」

「もう無理」


 そう言いながらも竹下さんは『伝わってなくてよかった気もする』と言って笑った。
 あー。かっこいい。もうすげー好き。条件反射みたいにそう思ってしまう俺は、ほんとどうしようもない。


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