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「ちげーよ。ただの先輩後輩」
「お互い好きなんじゃないんですか?」
「だからこそ、言えねーんだよ。俺だってそんな特殊な道に脱線する気はねぇし、小野さんを道連れにするのも嫌だ。いいんだよこのままで。大体、小野さんが俺と同じ気持ちか本当のところは分からないしな」
三木さんの言葉で、いつかの雪田を思い出した。
『いいんすよ。誰のものにもならないんだったらそれで、いいっす』
何でだ。何でそんな風に思える? そんな風に言われたら、俺の気持ちはチンケなものみたいだ。
俺は雪田が好きで、雪田を俺だけのものにしたい。でもそれは、世間一般じゃおかしくて……っていうか、ついこないだまで俺だってそんなのありえねぇって思ってたし、そんな感情を向けられたら普通に気持ち悪い。
普通って何だよ。普通じゃないって何だよ。……いや、分かってる。生物として成り立たないから、少数派だから、得体がしれないから、気持ち悪いし、普通じゃない。
もしも雪田が俺の気持ちを受け入れてくれたとしても、おおっぴらにできるわけない。隠し続けて生きていかなきゃいけない。結婚だってできない。子供だって持てない。
そういう道に、大事な奴を引きずり込むことが、俺の望みを叶えるってことだ。
「竹下?」
「……あ、すいません。何かぐちゃぐちゃして」
気付けば、駅の近くまで来ていた。三木さんは立ち止まって、そろそろ別れる素ぶりを見せる。
「好きでいる限り、ぐちゃぐちゃはするだろうな。一回そっから抜けても何かの岐路に立った時にまたぐちゃぐちゃする。俺がそうだ。でも、だからって、捨てる気にもならねーんだよな」
「……厄介です、ね」
「ほんとにな。……こんな話になると思わなかったけど、話せてよかったよ。じゃあな」
「はい。また」
三木さんの自嘲的な笑い顔が頭から離れなくて、俺はしばらく動けなかった。
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