10-3
「よかった、会えて。会えなかったら、電話しようと思ってたんだ」
竹下さんはにこにこしながら隣の椅子に腰を下ろした。最近、本当によく笑顔を見ている気がする。竹下さんはあまり喋らなくて、あまり笑わない人だったのに。
やっぱり好きな人が出来て、何か変わったのだろうか。
「何かあったんすか?」
「さっきじゅんぺーに俺も海行くって伝えて、日程聞いたんだけどさ。来週の木曜日の朝から行くんだって。じゅんぺーが雪田にも言ったつもりで言ってないのに気付いたとかで……いきなりになっちゃったけど、予定大丈夫?」
「ってことは、来週の木曜と金曜ってことっすよね?」
「うん、そう」
携帯でスケジュールを確認する。バイトのシフトはすでに決まっている。もう少し早く聞いていれば休みを取れたんだけど……と今さら言っても仕方が無い。
幸運なことに、木曜はたまたま休みだった。金曜は19時からバイトだけれど、それまでには帰れるだろう。一応、他のスタッフに交代してもらえるか聞いてみてもいいし。
「たぶん大丈夫っす。最悪俺だけ先に抜けさせてもらうかもしんないっすけど」
「そっか、よかった。集合は、朝の8時にじゅんぺーん家ね。そっから全員じゅんぺーの車乗って行くんだって」
霧島さんの車は7人乗り。サークルのメンバーもちょうど7人。まあ、男ばっかでちょっと窮屈そうだけど。
「そういえば、泊まるとこはどうなってるんすか? 突然人数増えてもよかったんすかね?」
竹下さんも行くって言ってくれた日からもう1週間経ってんのに、霧島さんに伝えたのが『さっき』だなんて。竹下さんも大概適当な人だ。
「三木さんの実家にお世話になるんだってさ。海水浴場の割と近くだとかで、人数分の布団くらいは用意できるって。晩飯は庭でバーベキューするらしいよ」
「まじすか。三木さんのご実家って庭があるんすか……すげー」
「俺もずーっとマンション暮らしだから、同じこと思った」
「俺もずっとマンションっす。一軒家とか憧れっすよ」
……よかった。普通に話せる。
ずっと、こんな風に普通にしていられたらいい。例えば、竹下さんが好きな人と付き合うことになったって言ったとしても。普通に笑って、普通の後輩らしく、祝福してあげられる奴でいたい。
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