10-2
何もする気が起きないのに、前期授業最後の週はテストやレポートのラッシュだった。大学での初めてのテストは大変ではあったけど、楽でもあった。
竹下さんのことを、ずっと考えなくて済んだから。
明日からは夏休み。竹下さんの姿を見ることや、会えたりなんてこともなくなるけれど、それもいいと思う。でも、すげー会いたいとも思う。どっちも本音だし、実際そうなるとどっちも辛い。もうぐちゃぐちゃで訳が分からない。
あとは4限のテストを受ければいいだけなので、俺は1人、大学のカフェでボーッと何をするでもなく、ただ座っていた。いつも決まって窓際に座るのは、竹下さんを見られたらいいなと思うから。今だってそうだ。自分がどうしたいか分からないなんて言ってみても、結局、俺は竹下さんに会いたいのだ。
そして、見つける。竹下さんだけが光を放っているみたいに、すぐ俺の目は竹下さんを捉える。2階にあるカフェにいる俺からすると、地上にいる竹下さんを見下ろす形になるのに、どうして眩しいと感じるのだろう。
……今、目が合っているような気がするのは、きっと勘違いで。竹下さんが手を振っているのは、俺にじゃない。空しくなって目を逸らすのと同時に、携帯が震えた。
竹下さんからの電話だった。
「はいっ、雪田っす」
慌てて携帯を耳に当てて、竹下さんに視線を戻した。今度こそ本当に目が合う。
「何で手振り返してくんないの? 恥ずかしいじゃん」
「え。俺に振ってたんすか?」
「雪田以外に手なんか振らないよ。今1人?」
「あ、はい。1人っす」
「何してんの?」
「4限まで時間潰そうと思って。ボーッとしてるっす」
「俺も行っていい?」
「もちろんっすよ」
「よかった。じゃあ、行くね」
にっこりと笑う竹下さん。そんな笑顔はあまり見たことがなくて、心臓がドクドクうるさい。
もう、十分だ。話し掛けることさえ出来なかった竹下さんに、あんな風に笑顔を向けてもらえるようになれた。わざわざ俺のとこに、竹下さんが足を運んでくれるなんて考えられなかった。
こんな風に、仲の良い後輩になれただけでも幸せじゃないか。どんな形でも、そばにいられるのなら。
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