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「れお。そろそろ起きて」


 優しく俺の名前を呼んで起こしてくれる声に、思い当たるふしがない。何事? と思いながら目を開けると、そこには竹下さんの顔があった。
 慌てて身体を起こす。一瞬、竹下さんの家だということを忘れてしまっていた。そして眠れると思っていなかったのに、いつの間にか寝てしまっていた。しかも、起こしてもらうなんて。


「すみません! 迷惑ばっかかけちゃって!」

「そんなことないって。よく眠れた? 具合どう?」


 何で竹下さんはそんなに優しいんすか。何で、そんな……俺なんかに、優しくしないで下さいよ。
 昨晩、トイレであれだけ泣いたのに、まだ涙は枯れていないようだ。竹下さんの顔をまともに見られない。


「はい。もうすっかり具合も良くなったっす」

「よかった。じゃあ、家まで送る」

「竹下さん。俺、1人で帰れるっすよ。泊めていただいた上に送ってもらうなんて、申し訳ないですし、もう具合も良いし……」

「そういう遠慮されると、俺が寂しくなるんだけど。俺といんの嫌?」

「そんな訳ないじゃないっすか」

「うん。じゃあ、送らせて?」

「竹下さん……」

「俺、れおともっと仲良くなりたいんだよ。だから、何でもいいから、話しようよ」


 こんなこと竹下さんに言ってもらえたら、昨日までの俺だったら飛び跳ねるくらい喜べたのに。
 ……竹下さん。竹下さん、何で好きな人なんか作っちゃうんすか? 竹下さんが誰かを好きになれるなら、俺を好きになって欲しかった。
 もう後悔しか浮かばない。もっと早く話せるようになってれば。高校の時に勇気を出せていたら。好きなのは、竹下さんだって言えてたら。
 何か違ったかもしれないのに。


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