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 物思いに耽る内に、雪田が部屋に戻って来たようだ。部屋と水周り系を仕切るドアがパタンと閉まる音がした。雪田の具合がもの凄く気になるが、寝たふりをすると決めたので我慢する。ここで起きたら、雪田に気を遣わせてしまう。


「……竹下さん?」


 声を掛けられても無視した。というより、今のは俺が本当に眠っているのか確認するために名前を呼んでみた感じだった。


「……ありがとうございます。ベッド、お借りします」


 雪田は俺が何を思ってここで寝てるのか、すぐに分かってくれたようだ。それが、嬉しい。
 付けっ放しのテレビの音が消えた。そして、雪田が近付いてくる気配がする。


「眼鏡、外しますね」


 眼鏡をそーっと外される。そういえば、掛けたままだったと気付く。眠っている俺にお礼を言ったり、いちいち声を掛けてくる雪田はやっぱり俺の気分を良くする天才だと思う。
 初めて会った時も、雪田の笑顔でいい気分になったことを思い出す。そして、3ヶ月前の出来事を今も鮮明に思い出せることに驚いた。

 新入生にサークル勧誘のチラシを配るようにじゅんぺーに言われて、俺は嫌々その作業をやっていた。そもそも、じゅんぺーはサークルに新入生をたくさん入れる気なんてなかったし、俺に群がってくる女が本当の目的だったのだから、やる気なんてものが出る訳がない。でも結局は手を貸してしまうのだから、じゅんぺーは俺を利用する天才だ。
 うざってぇ女に囲まれながら、近くを通る男にチラシを差し出す。大体はスルーしていく。それがまたむかついた。そんな中で、雪田だけは、俺の目とチラシを交互に眺めて両手でチラシを受け取ったかと思うと、よく通る声で『あるっす』と言って、ヘニャっと笑った。それを見て、不満とか苛立ちとかが吹っ飛ぶくらい気分が良くなった。

 新歓コンパはサークルには関係の無い女だらけで、普段の合コンと何ら変わりがなかった。違ったのは、俺が他人の自己紹介に耳を傾けたことくらい。

『教育学部の雪田っす。今日は人生初の飲酒なんで、ご迷惑をおかけしたら申し訳ないっす! ビールうまいっす! よろしくお願いします!』

 言ってたことまで思い出せる。もしかしたら、俺にとって雪田は、最初から特別だったのかもしれない。


「おやすみなさい」


 雪田が寝ている俺に声を掛けてくれた。自然と口角が上がる。
 あー、俺って雪田のことほんとに好きなんだなぁって思った。


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