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「……竹下さん。すみません、お話の途中なんですけど、トイレお借りしてもいいっすか? 吐きそうっす……」

「いいよいいよ。っつーか俺こそ、ごめん。具合悪いのに何ずっと喋ってんだろ。ごめんね」

「や、全然そんな、竹下さんは何も悪くないっすから。じゃあ、お借りするっす。長時間占領してても平気っすか?」

「大丈夫だよ。洗面台とかタオルとかも勝手に使っていいから。早く行ってきな」

「ありがとうございます」


 トイレのドアが閉まる音がして、沈黙が流れた。特に見たいものがあるわけではないけれど、テレビの電源を入れる。そして普段より音量を大きくした。

 さて。これからどうするのが一番いいか考えてみる。
 後輩の鑑である雪田が、先輩の俺を差し置いて、俺のベッドで眠ることを自分に許すだろうか。きっとそれは無い。おそらく体調がどうであろうと俺にベッドを使うよう言うだろう。
 ということは、俺は今の内にソファで寝ちゃうべきじゃないか? そうすれば雪田がわざわざ寝ている俺を起こしてまでベッドを譲ることは無いと思える。そうしよう。それがいい。
 クッションを頭に敷いて、楽な体勢になる。少し狭いが、問題なさそうだ。どうせ本当に眠る気はない。今晩は雪田の様子を看ていたいし。

 目を閉じて、自分の過去を思い出してみることにする。恋や愛なんてものが全く分からなかった自分。相手の気持ちなんて、考えてもみなかった自分。もし、俺を本当に好きだと思ってくれていた女がいたとしたら、随分とひどいことをしてきたものだと思う。

 最初の相手は、担任だった。


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