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「一個、聞いてもいい?」

「はい。何すか?」

「れおはさ、好きな女のどこが好きなの? 何で、好きになったの?」

「んー、何で、か。そーっすねー……。なんか、いつの間にか好きだったんす」

「もっと詳しく聞きたいんだけど」


 いや、本人に言うのはかなり気が引けるというか。何の羞恥プレイだよ。話すけど。


「俺が行ってた高校は教師が甘くて、みんな好き勝手に制服を着崩してたんすけど。その人はいつもシャツを出したりしないで、ネクタイも毎日付けてたし、シューズのかかとを踏んだりしないし、鞄も普通の通学用バッグで、髪も染めてなかったんす。でも、誰よりもオシャレっつーか、洗練されてるっつーか、綺麗だったんすよね。で、周りからも一目置かれてるっつーか、男女共に好かれてた印象っす。あんま喋ったりしないのに、いつも周りの人は楽しそうでした」


 竹下さんは自分から話すようなタイプじゃないみたいだったし、あまり笑っている所も見たことはない。だけど、周りにいる人はみんな竹下さんを中心に回っているように見えた。


「毎日同じ時間に購買でパンを買うんす。飲み物はいつも同じジュース。パンは必ず在庫が多く残ってる種類のやつから選ぶ。で、購買のおばさんに絶対『ありがとう』って言うんすよ。定期考査の結果は上位だけ貼り出される中にいつも入ってて、体育は見学が多い。電車では座席が空いてても立ってることが多い。行き先は、いつもバラバラ」


 放課後、竹下さんは電車に乗ってどこかへ行っていた。同じ電車に乗る日もあったけれど、降りる駅は違っていた。逆のホームに立っているのも何度も見た。俺はそれがずっと不思議だった。
 ある時、年上の女性と歩いている竹下さんを見かけて何となく分かった。きっと、竹下さんは複数の女性と関係を持っていて、いつも違う女性に会いに行っているのだと。


「そういうのをずっと目で追っている内に、あー、俺あの人のこと好きなんだなって思うようになったっす」

「そっか。……れおは、そいつのこと、すげー好きなんだ?」

「はい」

「……俺もさ、最近目で追っちゃう子がいんだよね。何かすぐにその子のこと考えちゃうんだよ。これってさ、『好き』ってことだと思う?」

「た……けしたさん、好きな人、いるんすか……?」


 痛む頭が、膨張したみたいだ。心臓が脈打つ度に、顔に熱が集まっていくように感じる。
 頼むから涙だけは出ないで。せめて、竹下さんの後輩でいたいから。


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