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目を見開いただけで、奇声を発したり、後退ったりしなかった自分を褒めてやりたい。
30センチ……いや、20センチ程の距離にある竹下さんの顔を見つめる。俺が望んだ通り眼鏡を掛けたその顔は、いつもよりかっこよく見える。まさか自分に眼鏡フェチの気があったとは。
「どう?」
にっこり笑う竹下さんがもはや神々しい。
「眼鏡の竹下さんも、いい感じっす」
「れおは何でも『良い』って言うから当てになんないけどね」
「そりゃだって、竹下さんっすから。竹下さんだったら俺、坊主頭でもかっこいいって本気で思う自信あるっすよ」
「ほんと俺に甘いねー、れおは。最近知った」
「最近っすか」
「うん。こないだまでは、好かれてんのか怖がられてんのか、どっちかなーって思ってたし。挨拶はしてくれんのに、会話はあんましてくんなかったじゃん」
「緊張するんすよ。竹下さんと話すの」
嫌われたくない。ただ、それだけ。好かれなくたっていいから、うっとうしい後輩だとは思われたくなかった。
「じゃあ、俺とはじゅんぺーと話すみたいに自然にはできない?」
「できないっすね。あ、悪い意味じゃないっす。竹下さんには、俺、何ていうか……憧れ? みたいのがあって。だから、霧島さんとは違くて」
「ふーん?」
「あ……気分、悪くしちゃいました?」
「ううん、全く。むしろ逆? それって俺は特別ってことでしょ?」
「あ、はい。竹下さんは特別っす」
「……うん。すげー気分いいわ」
俺の『特別』っす。竹下さん。
竹下さん。大好きっす。
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