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「水、ここに置いとくから」


 ベッドサイドテーブルに、ミネラルウォーターのペットボトルが置かれた。それを目で追うと、近くに置かれている他の物が目に入った。
 まず目に付いたのは、眼鏡。たぶん度が入ってる。竹下さんって目が悪かったんだと、新しい発見に胸が踊る。そして、漫画が3冊。最近、霧島さんが知り合いに布教活動をしているものだ。8巻以降がなかなか回って来ないと思っていたら、ここで止まっていたのか。思わず笑ってしまう。


「なに? ああ、漫画?」

「霧島さんのっすよね?」

「そうそう。面白いから読めって無理矢理押し付けて来てさ、借りたら借りたで、早く読めとか言ってくんの。俺が読みたくて借りたんじゃねえっつうのにさ」

「霧島さんらしいっすね」

「れおも、借りてる?」

「……あ、っと、はい。俺も途中まで借りて読んだっす」


 怜央って呼ばれて動揺した。そうだった。2人でいる時は、そう呼ぶと言っていた。さっきまでは雪田だったのに、何だその使い分け。今、2人っきりなんだと、ものすごく意識してしまう。


「あの。竹下さんて、目悪いんすか?」

「そんなでもない、かな? でも普段はコンタクトだよ」

「俺、眼鏡掛けてる竹下さん見てみたいっす」

「見たいの?」

「見たいっす」

「じゃあ、見せてあげる。待ってて」


 また髪を撫でられた。癖なのか? 誰にでもする? そんなことする竹下さんなんて、見たことないけどな。もし見てたら、嫉妬とかしそうだ。俺が何も望まないでいられるのは、竹下さんが『特別』を作らないから。
 もし竹下さんが、誰かを特別に思うようになったら、俺は……どうなるんだろう。こんな一方的な想いだけを募らせて、どう処理すればいいんだろう。
 ドロドロした感情が湧いてくる。男性を好きになった時点で、報われるはずがないと分かっていたじゃないか。


「お待たせ」


 不意に竹下さんの声が間近に聞こえて、自分が目を閉じていた事に気が付いた。目を開くと、目の前に竹下さんの顔があった。


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